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平成16年2月
可変機構の故障でエンジン始動不能

 走行中にエンストして、その後に始動不能になった、'99年式のダイハツ・ムーヴ(GF-L900S、エンジン型式EF-VE、走行距離5万4千km)のトラブル事例を紹介する。
 基本点検では力強い点火火花が飛んでおり、フューエル・インジェクタの作動音も確認できた。
 スパークプラグを取り外してみると、電極部はびしょ濡れになっていた。
 空燃比が濃すぎるのか、それとも燃焼するに至らない、何らかの原因があるものと推測される。
 整備主任者技術研修でおなじみの、外部診断器(日立モバイル製のHDM-2000)を接続して調べてみると、ダイアグノーシス・コードは、「73」の可変バルブタイミング制御系の異常が表示され、データモニターで見るかぎり、空燃比が濃くなりすぎるような要素は見受けられなかった。
 基本点検でまだ実施していなかった、圧縮圧力を測ると、3気筒共7kg/cm2弱しかないことがわかった。
 どうやら、ダイアグノーシスに検出されていた、「可変バルブタイミング制御系」に問題があるのかもしれない。
 可変バルブタイミング制御系が異常と判断される条件を修理書で調べてみると、『バルブタイミング制御に異常が、2回連続して発生したとき。』と書かれていた。
 エンジンのフロントカバーを外して、クランクプーリとカムプーリの合いマークを確認すると、図1のように正しく一致していた。
 このエンジンのカムシャフトの駆動方法は、排気側のカムシャフトのみをタイミングベルトで回し、吸気側のカムシャフトは両者の間に設けられたギヤで回す方式が採られている。
 可変バルブタイミング機構は、タイミングベルトがかかっている排気側のカムプーリとカムシャフトが直結になっているのに対して、吸気側のカムシャフトを駆動するギヤは、ある角度だけ回転方向に動くようになっている。
 この動きが吸気側のカムシャフトに伝わり、吸入バルブの開閉時期を可変させる仕組である。
 どれだけ吸気バルブの開閉時期が変化したかを検出するため、吸気側カムシャフト後端に、シグナルロータが設けられており、その信号をECUに送るカム角センサが、シリンダヘッドに取り付けられている。
 ロッカーカバーを外してカムシャフト同士のギヤの噛み合い位置を点検したところ、図2に示す本来のマークに合っていないことが判明した。
 クランクプーリとカムプーリ(排気側)のマークが合っているのに、カムシャフト同士のギヤの噛み合いがずれているという事は、排気バルブのタイミングは問題ないが、吸気バルブのタイミングが狂っている事になる。
 圧縮圧力が不足しているのも、これで納得がいく。
 カムシャフトを取り外して調べてみると、可変機構が組み込まれた排気側カムシャフトの前端部のロックナット(左ねじ)が完全にゆるんでいた。(図3
 ロックナットを外して内部を詳しく調べてみると、カムシャフトとハブの位置決めをするピンの穴が両方共えぐられて、両者間にずれが生じていた。(図4〜6
 こうなったのは、前述のロックナットがゆるんだために、回転トルクがすべてピンに集中した事で、ピンの穴がえぐられてしまったものと推測する。
 ピンはあくまでも位置決めが任務であり、回転トルクはロックナットの締め付力によって受け持つのが本来の働きである。
 この部分は非分解扱いになっており、部品供給はカムシャフト・アッセンブリーなのだから、図7に示すような「ゆるみ止め」を施すべきではないだろうか。
 その後も、ミラやオプティおよびハイゼットなど、同じメカニズムを有するエンジンでアイドル不調や、始動不良を訴える事例があり、そのいずれもがダイアグコード「73」を表示しており、カムシャフトの交換で完治している。
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