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平成14年5月
前後とも動かない(ECVTの電圧・電流測定)

 今回は、前後とも全く動かないという、平成4年式サンバー(車両型式V−KV4)のトラブル事例を紹介する。
 この車のトランスミッションには、無段階変速式のCVT(スバルではECVT)を採用している。
 このECVTは、2つのプーリの径を、油圧で変えることにより無段階に変速比を変えているのだが、エンジンからの動力は、電磁式クラッチを使い駆動力を伝える方式を採用している。(図1、図2参照)

図1 ECVT構成図
図2 プーリの変速作動
 前後とも動かないとなると、まず考えられるのが、電磁クラッチに電流を流すブラシの磨耗である。次に、電磁クラッチ自体の滑りである。
 しかし、依頼者の工場でともに交換したということである。
 こうなると、後は実際に電磁クラッチに正規の電流が流れているかを調べる必要がある。
 図3のように、5A以上の電流、12V以上の電圧が測れるテスターをセットし、電圧と電流を測定した。
 測定する状態は、Nレンジと走行レンジ(アイドル時、ストール時)である。
 サンバーの基準値はなかったが、測定した結果、だいたい正常と思われる範囲であった。
 なお、スバル車は、平成7年前後で電磁クラッチの方式が変更になっているので、年式、車種によっては、図3のデータが参考にならないものもある。
 こうなると、ミッション内部の不具合ということになる。しかし、ECVTの場合、油圧が無くても、2つのプーリはセカンダリプーリ内のスプリング力により、ローギヤに固定されるので動かないということはない。
 となると、スチールベルトの滑りとなるが、聞いた話では、プーリとスチールベルトが滑るとかなり大きな音がするということである。依頼者にそこを確認すると、音がしたかどうかは確認してないということである。
 あと考えられるのは、シフトレバーの動きが、ミッション内の前後切替機構に伝わってないということである。ミッションまでのリンクは動いており、仮に前後切替機構がニュートラル状態になっているとすれば内部の問題である。
 これ以上の作業はできないので、依頼者に引き取ってもらい、分解して調べてもらうことにした。
 後日、電話で確認すると、ミッションのオイルパンを外したところ、スチールベルトの張りが無かったので、スクラップにする車のミッションと交換したということであった。
 そのままの状態で、スチールベルトが滑っているのか、プーリが滑っているのかは確認できないので、そのままにしているそうである。暇をみて分解してみるということであるが、どちらが先に滑ったにしろ、共に磨耗はしているはずである。
 ユーザーに音がしたかどうかを確認して、もし異音がしていたというのであれば、いろんな手間をかけずにすんだのではないかと思われる。《技術相談窓口》
図3 スバルECVT・電磁スクラッチ回路の点検データ

《1》電流・電圧計の接続

《2》電流・電圧の測定 ≫拡大



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