実践!整備事例一覧表
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平成14年6月
フルード交換を怠るとブレーキが効かなくなる
当会の予備テスター場で、後輪の制動力がまったく無いという’93年式のタウンエース・トラック(S−CM51、走行11万km)の不具合事例を紹介する。
駐車ブレーキは効いていることから、ライニングとブレーキ・ドラムの摩擦に問題がある訳ではなく、ホイール・シリンダー等の動きが悪いと思われる。
ブレーキ・ドラムを外した状態で、ゆっくりとブレーキ・ペダルを踏んでみると、踏み残り代が感じられる位置になっても、ホイール・シリンダーのピストンは全然動かない。
このことから、マスター・シリンダーからホイール・シリンダーの間で、閉塞されていると判断される。
一般的に、後輪側のブレーキには、ロックを防止するために、プロポーショニング・バルブ(俗にいうPバルブ)が用いられていることは周知のとおりであり、その作動特性は(図1)のようになっている。
図1
プロポーショニング・バルブの作動特性
特に、貨物車の場合は積み荷の有無によって、後輪の荷重が大きく変化するので、積み荷の大小による後輪側のスプリングのたわみ量を検出して、後輪ブレーキへの油圧制御を変化させるようになった、ロード・センシング・プロポーショニング・バルブ(LSPV)と称する物が用いられている。(図2)
図2
ロード・センシング・プロポーショニング・バルブの取付状態とその特性
LSP&Bバルブ断面
LSP&Bバルブ配置
ブレーキのパイプラインが閉塞されているとすれば、このバルブを真っ先に調べる必要がある。
バルブの出口側のフレアナットを緩めてブレーキ・ペダルを踏んでも、一滴のブレーキ・フルードも出てこないが、入り口側からは勢いよくフルードが出てきたので、間違いなくバルブの詰まりであることが判った。
このバルブは非分解なので、このような場合は、新しい物と取り替えなければならないが、確認のためにあえて分解してみることにした。
内部は予想以上に錆がひどく、ピストンはバイスプライヤーを使って、やっと抜ける状態であった。(図3)
図3
分解したLSPV内部の状態(左)と失端部分が錆びたピストン(右)
これでは後輪ブレーキが効かないのも当たり前である。
ユーザー車検や、代行業者の台頭によって安売り車検があふれているが、なにも整備をしないでとりあえず有効期間の更新だけを行うと、今回のようなことが多発することは必至である。
ホイール・シリンダーのカップやダスト・ブーツを交換しなくても、せめてブレーキ・フルードだけでも車検ごとに交換していれば、この手の不具合は未然に防げるはずである。
乗用車においては、プロポーショニング・バルブをエンジンルーム内に取り付けてあったり、マスターシリンダーと一体になっているので、その存在を忘れがちだが、重要なことである。
最近はABSの装着率が高くなっているので、特にシビアなフルード管理が必要である。
現に数年以上経過した車で、ABSのワーニング・ランプが消灯しなくなったというトラブルのほとんどが、ABSアクチェーター内部のバルブ等のスティックによるものであり、その原因はやはり水分である事例を数多く体験している。
ご承知のように、ブレーキ・フルードは極めて吸湿性が高く、2年以上経過したフルードは沸点の低下は言うまでもなく、その水分によって金属が錆びることは、火を見るより明らかである。(表1)
表1 ブレーキ液の交換時期について
ブレーキのパイプライン内にコレステロールを溜めないように、こまめなメンテナンスが必要であることを、いま一度認識しなおして、『整備付車検』の大切さをユーザーにアピールしてほしい。
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