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平成14年8月
問診と再現手法の良否が故障診断の決め手

登坂走行時に、エンジンが吹き上がらなくなって、エンストする事があるという、平成12年式のワゴンR(GF-MC21S、エンジン型式K6A、走行距離4万8千km)のトラブル事例を紹介する。
 工場の担当メカニックの話によると、平坦路を数km走ってから、坂道を登りはじめて1〜2km前後で、トラブルが発生するとの情況である。
 これまでに、燃料系統や吸排気系統の点検および部品交換をおこなってみたが、あいかわらずトラブルは発生し続けているらしい。
 トラブルシューティングの基本は、まずトラブルの現象を確認することから始めなければならないので、実際に道路を走ってみる。
 8%程度のこう配をしばらく走ってみたが現象はなかなか再現してくれない。
 車の外観等から判断して、ハードな走り方をしないと、再現しない可能性が考えられるので、Dレンジではなく2およびLレンジにホールドして登坂をくり返してみた。
 その結果、やっとトラブル現象を再現させる事ができた。
 その時の様子は、突然エンジン回転が下がったかと思うと、いったん回復して、再び下がってエンストに至った。クランキングしても、すぐには再始動できず、2〜3分後にやっと掛かった。
 この時のタコメータの指針の動き等から判断すると、どうやら制御系にトラブルの原因が潜んでいると思われる。
 トラブルの再現に備えて、あらかじめ接続しておいた、外部診断機(HDM-2000)で調べてみると、ダイアグノーシスコードは異常を検出していなかった。
 クランキングしながら、データモニタ画面を見ると、エンジン回転信号の数値が安定せず、それに呼応してタコメータの指針が大きくジャンプしていた。
 詳しく調べるため、工場に戻ってオシロスコープをエンジン回転信号検出端子に接続して、正常時と異常時の比較をしてみた。
 エンジン回転を5千回転前後にして負荷を与えないとトラブルが再現しなかったので、それと同じ条件にするために、クランク角センサをドライヤーで加熱すると、数分後に期待どおり再現できた。
 その時のエンジン回転信号を図1に示すが信号がまったく無くなっているのではなく、間引きされた形で、時々信号が発生している事が判明した。
 ECU(エンジン・コントロール・ユニット)はこのまちがった信号を受けて、点火および噴射順序がメカニカル部分と合致しない制御をしてしまって、トラブルが発生した訳である。ちなみに、この時のセンサ部分の温度は90℃であった。
 クランク角センサの外観は図2に示すようにホール素子式のセンサである。
 従来はピックアップコイル式が主流であったが、近年はどのメーカーもホール素子式が多用されるようになった。
 電気的な故障は、「温度」・「湿度」・「振動」に起因するものがほとんどなので、時々しか再現しないトラブルを究明する場合は前述の3つの条件を積極的に変えてやる事で、診断がスムーズにおこなえる。
 ただ漫然とトラブルの再現を待っているだけでは、効率的な診断作業は望めない。
 最後になってしまったが、今回のトラブルがダイアグノーシスになぜ検出されなかったのかを説明しておく。
 それは、図1の波形から判るが、クランク角センサの信号が完全に欠落しているのではなく、途切れながらも出力されているから、ECUは信号有りと判断してしまうからである。したがって、完全に信号が無くなっていれば、ダイアグノーシスに異常コードが検出されるので、原因究明が楽だったにちがいない。
 教科書どおりにトラブルシューティングが進まないのが、現実のトラブルであるから、柔軟な対応が必要である。《技術相談窓口》
 

図1 クランク型センサおよびカムセンサの信号波形(左が正常時、右が異常時)
下段のカム角センサの信号に対して、クランク角センサの信号が部分的に欠落している。
図2-1 クランク角センサ回路図
図2-2 クランク角センサ外観

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