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平成14年9月
ガソリン・エンジンの3要素 パート1(よい燃料編)

 ガソリン・エンジンに必要な3要素といえば「よい燃料」「よい火花」「よい圧縮」である。
 今回は、その中の「よい燃料」に関するトラブルを紹介する。
 その前に、「よい燃料」とはどういったことなのかというと、「その時のエンジンの状態に最適な空燃比」である。
 そのためには、最低限何が必要かというと、一つは燃圧(燃料の圧力)であり、もう一つはインジェクタが作動していることである。
 燃圧があってインジェクタが作動していれば、多い少ないは別として、燃料は噴射されるはずである。後は、噴射時間の狂いやインジェクタの詰まり、エア吸い等がなければ最適な空燃比になるはずである。

《事例1》
 平成8年式CR−X(車両型式EJ4、エンジン型式D16A)始動不能というトラブル。
 基本点検を行うと、火花は飛んでおり、インジェクタの作動音もあった。燃圧を燃圧計で測定すると0kg/cm2だった。
 可燃性のブレーキクリーナを吸わせながらクランキングすると、始動することができた。このことからエンジン本体は問題ないと思われた。燃圧がないことが始動できない原因である。
 フューエルポンプに通電されているかどうかを調べるため、PGM−FIメーンリレー(フューエルポンプリレー内蔵)を調べようとしたら、カプラが抜けてしまった。ロック位置まで入っていなかったようである。きちんと差し込むと始動することができた。

《事例2》
 平成元年式のジムニー(車両型式JA11、エンジン型式F6A)走行しているとエンジンが吹かなくなるというトラブル。ただし、キースイッチをOFFにするとしばらくはよいという。
 エンジンが吹かなくなる原因が、点火系なのか燃料系なのか分からなかったので、とりあえずタイミングライトをフロントガラスに貼りつけて、点火状態を調べることにした。しばらく走行すると、依頼者の言うとおりエンジンが吹かなくなった。その時のタイミングライトは発光しており、IGコイルの容量不足によるものではないようだった。そのままの状態で工場に戻り、点火波形をスコープで調べたが問題無かった。
 点火に問題ないようだったので、次は燃料系を調べることにした。基本となる燃圧と、噴射時間を決める元となるバキュームセンサの電圧を、それぞれモニターできるように燃圧計とサーキットテスタをセットした。
 さきほどと同じように走行してみるとすぐにトラブルが再現した。その時の燃圧は0.8kg/cm2だった。通常、2kg/cm2はないといけないはずである。フューエルポンプへの通電状態は良いことを確認したので、ポンプ自体の不良と判断した。
 フューエルポンプを交換するために、フューエルタンクを外してみると、タンク内には多量の赤サビが発生しており、これによりポンプの吸入側のフィルターが詰まっていたようである。

《事例3》
 平成4年式プレリュード(車両型式BB4,エンジン型式H22A)初爆はあるがすぐにエンストしてしまうというトラブル。
 ダイアグノーシスは正常コードを出力しており、火花点検、燃圧測定、インジェクタの作動音の点検をしたがすべて正常である。
 エンジンの3要素の残りは「よい圧縮」であるが、可燃性のブレーキクリーナを吸わせると、エンストしないことから、圧縮を含むエンジン本体は問題ないと思われた。
 可燃性のスプレーを吸わせてエンストしないということは、燃料が足りないということである。
 このエンジンは、バキュームセンサを使ったDジェトロタイプなのでエア吸いは考えられない(エアを吸っても回転があがるだけ)。また、インジェクタの詰まりも全気筒とは考えにくい。
 こうなると、問題は噴射時間である。オシロスコープを使い、噴射時間を調べると、クランキングしているときは16msあり爆発はしているのだが、クランキングをやめると急に噴射時間が短くなりエンストした。はっきりと時間を読みとることができないので、可燃性のスプレーを吸わせながら測定した。すると1.6ms前後でだった。これは短過ぎである。
 噴射時間に最も影響を与えるMAPセンサ(バキュームセンサ)の電圧を調べると、0.5Vのまま変化しない。センサにかかっている負圧を変えても同じである。
 ホンダ車の場合、アイドリングで約1Vである。それの半分の電圧では燃料が足りないのは当然である。
 噴射時間は、クランキング時は水温によって決定され、始動後はMAPセンサの信号を基本として各種センサで補正をするというのが一般的である。そのために、この車の場合、クランキング中は充分な燃料が噴射されているが、クランキングをやめると燃料不足でエンストしていたようである。《技術相談窓口》
 

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