平成16年1月
やっかいなショートのトラブル
パワーウィンド、パワーシートが動かずに、バッテリーが1日で上がってしまうというトラブルを紹介する。
車は平成4年式シーマ(車両型式E−FGY32、エンジン型式VH41)である。
状況を詳しく聞くと、つぎのようなことが分かった。
バッテリーが上がったので、ユーザーがブースタケーブルを接続してエンジンをかけようとしたらしいが、その時にバッテリーのプラスとマイナスを間違ってケーブルを接続したということである。
依頼者の工場の人が、車を取りに行ったときは、100Aのヒューズブルリンクが溶断していたらしいが、交換するとエンジンがかかり、調子も悪くなかったので、走行して工場まで帰ったそうである。
翌日、車の点検をしようと思ったが、バッテリーが上がっていたので充電をし、念のため充電量を調べると、オルタネータが発電をしていなかったのでオルタネータを交換したということである。しかし、翌日にはまたバッテリーが上がってしまったということで、今回の依頼となったわけである。
パワーウィンドは動かないということだったが、10回に1回くらい、1秒ほど動くことがあるという。
これらの話を、持ってきた車の近くで聞いていると、運転席側のヒューズボックス付近で、5〜6秒に1回ほど「カチッ」とリレーの作動音のような音が定期的に聞こえた。イグニッションスイッチをOFFにしても同じである。
この音とパワーウィンドの作動状況を考えると、音がしたときにパワーウィンドが作動するのではないだろうかと思い、運転席側のパワーウィンドのスイッチをダウン側に押したままにしておいた。すると、「カチッ」と音がするとガラスが3cmほど下がった。そのままにしておくと、5秒後に音とともにガラスがさらに下がった。
この音は間違いなくパワーウィンドの電源側にあるブレーカの作動音である。
はじめはリレーの作動音かと思ったが、この車のパワーウィンドの電源側にはリレーは使っておらず、替わりに一定電流以上が流れると電源回路をOFFするブレーカを使っていた。
このブレーカには、いったんOFFすると強制的にONさせないとならないタイプと、一定時間経過すると接点が自動的に復帰するタイプがあるが、ニッサン車には後者が使われている。このブレーカが定期的にON,OFFするということは、このブレーカに過電流が流れているということになる。
ブースタを逆接続したことにより、どこかがショートしているものと思われる。
どのくらいの電流が流れているのだろうと思い、バッテリーのところで電流を測定すると、ブレーカが「カチッ」と音がすると30Aをオーバーした。これでは当然、ブレーカがOFFするし、バッテリーが一晩であがるはずである。
このブレーカが電源となっているシステムがどれかというのを調べてみた。すると、パワーウィンド、オートドライビングシステム(パワーシート,ステアリング位置)につながっていることがわかった。
これらのうち、どれかがショートしていると思われる。どのシステムでショートしているのかは、それぞれのシステムのコンピュータやセンサー、アクチュエータを外さないと判断できないが、パワーウィンドやパワーシートは前後・左右の4箇所にあるし、それらを1つずつ外すとなると大変な作業である。何かよい方法はないかと考えてみたところ、ショートしている個所はブレーカがONしても動かないのではないかと思い、それぞれを動かしてみた。
すると、助手席のパワーシート以外は、スイッチをONにしたままにしておくと、ブレーカの音がすると同時に少しだがそれぞれ動くが、助手席のパワーシートだけは、ブレーカがONしても、前後もリクライニングも全く動かなかった。
たぶん、ここだろうと思い、助手席のシートの下にあるユニットのコネクタを外してみた。すると、ブレーカの音はしなくなり、パワーウィンドも正常に動くようになった。
助手席パワーシートのECUを外し、内部を点検したがショートしているような形跡はなかったが、ECUに接続しているモーター類のコネクタを外しても変わらなかったので、ECUの不良と判断し、交換することにした。
交換後は、パワーウィンド、パワーシートも正常に動くようになり、暗電流(イグニッションキーを抜いた状態で、車が消費している電流)を測定すると、50mAと問題ない数値になった。これでバッテリーがあがる心配もなくなった。
バッテリーの逆接続で、なおかつ10分くらいつないでいて、クランキングまでしていたということだが、このくらいのトラブルですんだのは不幸中の幸いである。
しかし、ショートというトラブルはいつしてもやっかいなトラブルである。
いろんな方法で、原因と思われる箇所を絞り込み、そんなに時間をかけずに解決することができたが、これがリヤシート側がショートしていたら、シートを外して確認するだけでもかなりの時間を要していたと思われる。これも不幸中の幸いかもしれない。
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