平成16年5月
ブレーキパッド交換後のトラブル
今回は技術相談窓口で、時々相談のある「ブレーキパッドを交換したら、ブレーキペタルが奥まで入るようになった。」という事例を紹介する。
まず、ブレーキパッド交換時の一般的な作業はというと、ディスクキャリパを外しパッドを取り出す。ピストンを押し込み新しいパッドを取り付けてディスクキャリパを組み付ける。といったところである。
この場合、パッドとロータ間には必要以上のすき間ができるのだが、ディスク式ブレーキには自動調整装置が付いているので、ブレーキペタルを数回踏めば、適切なすき間となり問題はないのである。
この自動調整装置について少し説明をしておくと、ブレーキペタルを踏むと、ピストンはピストン・シールを変形させながら、パッドとロータのすき間分だけシリンダから出る。ブレーキペタルを離して油圧が無くなると、ピストン・シールが元の状態に戻るため、シールの変形分だけピストンはシリンダ内に入り、パッドとロータ間にはピストン・シール変形分とほぼ同じだけのすき間ができる。
(図1)
パッドとロータのすき間が大きいと、シールの変形量が規定値を超えるため、ピストンがシールとの間を滑って移動していくが、油圧が無くなると、シールの変形分だけピストンは戻る。よって、ピストンとロータのすき間がいくら大きくても、ブレーキペタルを踏めば、常に一定のすき間(シールの変形量)となるのである。(実際には1度ブレーキペタルを踏んだだけで、このように適切なすき間になるかは疑問だが、数十回踏めば適切なすき間になると思われる。)
ただし、これはピストン・シールが正常に働く場合であって、古くなったピストン・シールや汚れたピストンではこのような働きはなくなる。
すき間が大きく変形の規定量を超えるような場合でも、ピストンはシールとの間を滑って移動せずに、油圧が無くなると、ピストンは元の位置に戻ってしまうようである。
こうなると、当然、ピストンの移動量は常に大きくなり、ブレーキが効くまでにはブレーキペタルを奥まで踏まないといけなくなってしまう。
特に、ディスクブレーキの場合、マスターシリンダとディスクキャリパ・ピストンの直径の違いが大きいので、ディスクブレーキのピストンの移動量が少しでも多くなると、マスターシリンダの移動量に大きく影響を与えてしまう。
(図2)
たとえば、ディスクブレーキのピストンの直径が、マスターシリンダのピストンの直径の3倍だとすると、ロータとピストンのすき間が1mm増えると、1mm×3の2乗倍=9mm、2mmだと18mm、3mmだと27mmいうふうに、マスターシリンダのピストンは通常より余分に移動しないといけなくなってしまう。(これは、マスターシリンダの移動量であって、ブレーキペタルの移動量はもっと多くなる)
これが、「ディスクパッドを交換したら、ブレーキペタルが奥まで入るようになった。」という原因である。
では、こういった場合どうすればいいのかというと、ピストン・シールを交換すればいいのだが、交換しないのであれば、ディスクパッドを組み付ける時、ピストンを出来るだけ奥まで入れずにパッドを組み付けることである。
要は、パッドとロータのすき間さえ少なければいいのである。
これとは別にもう1つ考えられることがある。それは4輪ディスクブレーキの場合である。
前述のような理由で、ディスクブレーキの場合、ピストンを押す容積がドラム式ブレーキに比べ多く必要になる。それが4輪ともなるとなおさらである。
通常、停止状態でブレーキペタルを一杯踏み込むことが少ないので、あまり気がつかないが、4輪ディスクブレーキ式の車はそもそもブレーキペタルが奥まではいるように感じる車が多いようである。
パッド交換後の1回目は、どうしても奥までペダルが入るので、気になって何度もブレーキペタルを踏むために、4輪ディスクの場合、異常と思ってしまうかもしれない。
こんな場合は、同形式の車と比較してみるのがいいが、同形式の車がなければ実走行でのブレーキングで試してみることである。そうすると、意外に深いと感じないものである。
パッド交換後、ロータとパッドのすき間に問題がないのに車両停止状態で深いと感じるようになった場合、走行でのブレーキングで、深いと感じなければそれでいいのではないだろうか。(もちろん、ブレーキテスタで保安基準を満たす制動力があり、ブレーキフルードにエアが入ってないなどの確認はしなければならない。)
《技術相談窓口》