平成16年6月
見直したい基本点検作業の重要性
「アイドリングが保てず、2000回転以下は不調」という、'97年式のスズキ・ジムニー(E-JA12W、エンジン型式F6A・EPIターボ、走行距離11万km)のトラブル事例を紹介する。
エンジン回転中に、チェック・エンジンランプが点灯していない事から、EPIシステムに異常は発生していないと考えられるので基本的な部分から調べてみた。
まず、クランキング中の回転が一定でなく、完爆後も3気筒の内に完全に燃焼していない気筒があり、あきらかに失火している。
スパークプラグを取り外して燃焼状態を調べたところ、すべて電極部がまっ黒になっていた。
事のついでに圧縮圧力を測ってみると、1番および2番シリンダは12kgf/cm2だが、3番シリンダは8.5kgf/fであった。
エンストしない回転に保った時の、インテークマニホールド負圧を測定すると、−200mmHg位しかない事から、バキューム・センサが検知した吸入空気量は無負荷アイドル時の値ではなく、中負荷時相当の値となり、基本噴射量が増えたのに対して、実際の吸入空気量は少ないために、オーバーリッチな空燃比となって、不調を起こしたものである。
スロットル開度とインテークマニホールド負圧の関係を図に示すので、参考にしていただきたい。
ロッカーカバーを外してバルブクリアランスを点検してみると、エキゾーストバルブはすべてスペック値より少ない、いわゆる「突っ張った」状態になっていた。
特に3番シリンダのそれは、アジャストスクリュを緩めるとバルブが上ってくる程であった。
これは、バルブフェースやバルブシートの摩耗による、「バルブの沈み」で、混合気やオイルによって潤滑されにくいエキゾーストバルブに発生しやすい現象である。
F6A型エンジンで、アイドル時の振れが大きい場合は、ほとんど
バルブクリアランスが小さくなっており、スペック値よりも少し緩く調整してやると、アイドリングが安定する事を何台か経験しているが、今回のようなバルブの沈みは初めてである。
後継エンジンのK6A型も同様の傾向である事を申し添えるが、このエンジンの場合は調整がアジャストスクリュではなく、シム式であるため、測定してから適切な厚さのシムをオーダーしなければならない。
電子制御式エンジンの不調で入庫してくると、その原因がすべて電子制御部分にあると考えて技術相談窓口に持ち込まれてくるが、今回の事例も含めて不調の原因は、エンジン本体等の機械的なものである事の方が多いのである。
エンジンに限らず、システムの機能点検を確実におこなうためには、そのシステムが正常な状態をしっかりと把握しておく事が重要であり、正常な状態を知らないと「異常」はわからない。
いま一度原点に立ち返り、エンジン本体等のメカニズムについて、正常な状態を知る事が、トラブル・シューティングのレベル向上につながるのではなかろうか。
《技術相談窓口》