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平成16年8月
ディーゼル黒煙濃度過多とその対処方法

 今年6月1日から、国の検査場において、ディーゼル黒煙濃度25%規制車の黒煙濃度測定が、すべて機器による測定に改められたが、2カ月経過した今日にあって、黒煙濃度検査で不合格になる事例が何件かあったので、それらに関する内容について述べる。
 これまで、ディーゼル車の黒煙濃度は、テールパイプから排出される排気ガス濃度を、検査官や検査員が目視で良否の判定をしていた。
 排ガス規制年度によって、「50%」、「40%」、「25%」の3段階の規制値が存在するこれらを、人間の目で見極める事ができるとしたら、彼らの眼力は尊敬に値すると思っていたが、ここにきてやはり機械による測定が余儀なくされた。
 考えてみれば当然の事で、ガソリン車は30年以上前から排気ガステスターで測定してきた訳であり、ディーゼル車は野放しに近かったのである。
 ところが近年になって、ディーゼル車の黒煙やPMが環境に良くないと言う理由から、規制が強化されてきた。
 ディーゼルエンジンの燃焼方式は、吸入した空気を圧縮して高温高圧になった燃焼室に燃料を噴射する、「拡散燃焼」であり、あらかじめ空気と燃料を混ぜ合わせて点火する、ガソリンエンジンの「予混合燃焼」と異なり、完全に燃焼しきれなかった燃料の一部が蒸し焼き状態となって黒煙(スス)が生成されてしまう。
 その量は、燃料噴射量に比例し、吸入空気量に反比例するので、黒煙濃度が規制値をオーバーしている場合は、それらを点検する事から始めなければならない。
 『黒煙濃度を調整してくれ』と頼まれるが、メカニカル式噴射ポンプならともかく、電子制御式噴射ポンプには調整スクリュが存在しないので、燃料噴射量を減らす事は不可能なのだ。
 ガソリンエンジンのキャブレターでも、ミクスチャ・アジャスト・スクリュの、リミットキャップを取り外してまで絞り込んでいるのを見かけるが、これは正しい整備ではない。
 そもそもの原因は、スロー系のエアジェットがブローバイガス等の影響で詰り気味になり、結果として燃料に対する空気量が不足して、空燃比が濃くなっている訳なので、エアジェットを洗浄すれば、スクリュをいじる必要はないのである。
 ディーゼルエンジンも同様で、燃料噴射量を絞る事を考えるのではなく、吸入空気量が不足する要素がないかどうかを点検する事から始めなければならない。
 具体的な要素は、表に示すので参考にしてもらいたい。
 吸入空気量が不足していない事が確認できれば、燃料噴射量過多の原因を追究する訳だが、噴射ポンプは最後の砦として考えるとして、まっ先に調べてほしいのは、噴射ノズルの開弁圧と噴霧状態である。
 噴射ポンプから圧送された燃料の圧力と、ノズルのスプリング力とのバランスで開弁圧が決まる訳だが、スプリングは経年変化でへたってくるので、結果的に燃料供給過多になってしまう。
 これらの点検をおこなって問題がなければ、噴射ポンプを取り外して、外注にてベンチテストしてもらえばよい。
 最後に、エンジンは正常でも黒煙濃度が規定値をオーバーしてしまうケースを紹介する。
 テールパイプで測定する黒煙は、燃焼室から排出されたものと、排気管やマフラー内部に溜っていたものとが一緒に出てくるので、たとえ燃焼室からの黒煙濃度が規制値以下であっても、排気系の残留黒煙によって規制値をオーバーして不合格になってしまう。
 マフラー内部に黒煙が溜るのはある程度やむをえないが、車の使い方でその度合いは大きく変わってしまう。
 低速運転や近距離走行が主体であるほど溜りやすいので、時にはレーシングして吹き飛ばす方がよい。
 夏場は受検待ちの間にエアコンを入れてアイドル運転するので、黒煙が溜りやすい。
 したがって測定する前に、エアコンを切って、充分に全開レーシングをおこなう必要がある。
 車検整備売上の単価減少を耳にするが、黒煙濃度測定をビジネスチャンスとして考えてみてはどうだろうか。
 前述の項目をしっかり点検していけば、かなりの工数になるはずだし、それなりの部品交換も発生すると思われる。
 今回全数測定の対象になったのは、平成9年排出ガス規制適合車以降の車であるが、それ以前の車についても測定すべきと思うのは、私だけだろうか。
《技術相談窓口》

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