平成16年10月
整備士の的確なアドバイスで故障は防げる
整備士の的確なアドバイスで故障は防げる
走行後にアイドル回転が不安定になって、エンストする事があり、すぐには再始動できないという、’93年式カローラバン(R−EE106V、エンジン型式2E、走行距離7万km)のトラブル事例を紹介する。
エンジンはキャブレター仕様(ストロンバーグ式2バレル)のオーソドックスなもので、現在主流の電子制御式燃料噴射装置ではないが、若いメカニックには新鮮に感じられるかもしれない。
エンジンを始動してみると、比較的アイドリングもスムーズで、レーシングでも問題なく吹き上がる。
実走行してみるが、言われるような不具合現象はなかなか再現してくれない。
少し走り方を変えるために、坂道を上ってみたり、低いギヤ位置にしてエンジン回転を上げて走ってみたところ、不具合が再現した。
アクセルペダルを踏んでいないのに、アイドル回転が1,500rpmから下がらず、テールパイプから黒煙を吐いており、その後しばらくしてラフアイドルになってエンストしてしまった。
再始動を試みるが、まったく掛かりそうな気配がなく、スパークプラグを外してみると電極部がビショ濡れになっていた。
スパークプラグを清掃してやると一発で始動できて、アイドリングも効くようになったので、不具合再現時に確認できなかったキャブレターのフロートレベルを調べてみると、サイト・グラスの中央位置になっていたので一応オーバーフローではないと考えられる。
今度はエアクリーナーのケースを外したままにして走行テストを行い、不具合発生時の様子を確認してみると、フロートレベルは正常なのに、セカンダリ・メーン・ノズルからガソリンが吹き出ている事が分かった。
しかもアイドル状態であるにもかかわらず、セカンダリ・スロットル・バルブが完全に閉じていないため、回転が下がらない状態がしばらく続き、徐々にセカンダリ・スロットル・バルブが閉じて、エンストしたあともメーン・ノズルからガソリンが流出していた。
この事から、キャブレターのセカンダリ・メーン・エア・ブリードの詰まりによるものと診断を下し、キャブレターを分解してみた。
メーン・ノズル及びベンチュリのホルダーと一体になったエア・ブリード入口のエアジェットを点検すると、ブローバイガスに含まれるスラッジ等で完全に穴がふさがっていた。
エア・ブリード内に全くエアが吸い込まれなくなると、セカンダリ・スロットル・バルブが開いて、ベンチュリ部に発生した負圧によってガソリンだけが吸い出され、いったん吸い出されると『毛細管現象』によって、ベンチュリ部の負圧がなくなったあとも流れ続けてしまう。
(図参照)
この流出した生ガソリンが、セカンダリ・スロットル・バルブのすき間からインテークマニホールドに吸い込まれたために、過濃混合気によって不具合が発生したものである。
エアジェットの洗浄と、動きが渋くなっていたセカンダリ・スロットル・バルブの動きを良くして組み付けると、不具合は解消した。
市内走行が主で、あまりアクセルペダルを半分以上踏む事がないような使われ方をした場合、セカンダリ・スロットル・バルブが開く機会がなく、今回のような不具合が発生しやすいので、時にはエンジン回転を上げてやる必要がある。
ユーザーに対して、このようなアドバイスは、メカニズムに精通した「整備士」にしかできない訳だから、せっかくのチャンスを逃がしてはならない。
《技術相談窓口》