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2005年2月
危機一髪! 4WD車のタイヤの取扱いは慎重に
 高速道路を走行中、何かが焼けたような匂いがして、車が重くなったような感じがするという、平成12年式のミニキャブ・トラック(GD-U62T)のトラブル事例を紹介する。
 車を動かしてみると、通常であればブレーキを踏んでいないと車が動いてしまうような勾配でも、ブレーキペダルから足を離しているにもかかわらず、車は止まったままで、まさに車が重いという表現があてはまる。
 車をリフトアップしてタイヤを回してみると、前輪が左右共に重いので、フロント側デファレンシャル・ギヤのオイルを抜いてみたところ、強烈な匂いがした。
 この事から、フロント・デファレンシャル・ギヤが焼き付き寸前の状態になっているにちがいない。
 ユーザーの話によると、車を走らせたのはユーザーの息子さんで、2WDと4WDの切り換えがある事を知らず、4WDのままで高速道路に入ってしまい、しばらくして異変に気付いたらしい。
 この車の駆動方式は、「パートタイム式4WD」で、コンソール・ボックス部分のスイッチ操作で、前後輪のプロペラシャフトを結合するか否かで、2WD←→4WDを選択する、いわゆる「直結タイプ4WD」方式である。
 この方式はシステムが簡単である反面、センター・デファレンシャル機構を持たないために、旋回走行時のように前輪と後輪の軌跡が異なる場合に発生する、車輪の回転速度の差を吸収できないので、雪道や砂利道のような摩擦係数の小さい路面では回転速度の遅い方の車輪がスリップしてその差を吸収できるが、乾燥路面のような摩擦係数の大きい路面ではスリップしてくれないので、車がギクシャクする「タイトコーナー・ブレーキング現象」が発生してしまう。
 これを防ぐため、路面の状況や走行状態に応じて、ドライバーが2WD←→4WDの選択をしなければならないのは、周知のとおりである。
 今回の場合は、4WD状態のまま摩擦抵抗の大きい路面を高い車速で走った事で、前後輪の回転速度の差によって、前後のデファレンシャル・ギヤに無理な力が作用していた事は、明らかである。
 しかもよく見ると、前後のタイヤサイズは異なったものが装着されており、これでは直進走行時でも常に前後の車輪に回転速度の差が生ずるので、無理な力が加わったフロント・デファレンシャル・ギヤ内部のドライブ・ピニオンとリングギヤの噛み合い部分が、焼き付き寸前になったものと考えられる。
 異変に気が付かないか、そのまま無視して走行を続けていたら、前輪がロックして大変な事態になっていたかもしれない。
 4WD車は、前後輪のタイヤサイズは言うに及ばず、メーカー、トレッドパターン、摩耗状態および空気圧をそろえて、タイヤの動荷重半径を同一にしてやるのがセオリーである。
 「フルタイム式4WD」で、センター・デフ等の差動吸収機構を有している車であっても、前述の事を守らないと差動吸収機構が過熱して、車輌火災に至った例があるので、プロの整備士からユーザーへ的確なアドバイスを提供する必要がある。
《技術相談窓口》

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