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2005年5月
学習するコンピュータ

  アイドル回転が低くエンストしたり、エンストしないときは、発進時に息つきを起こすという、平成11年式ムーブ(車両型式GF−L900S,エンジン型式EF−SE)のトラブル事例を紹介する。
 アクセルペダルを少し踏み込むと700rpmでも安定している。失火によりアイドル回転が低いわけではなく、コンピュータによるアイドル回転制御がうまく働いてないようである。
 通常、アイドル回転制御はスロットルバルブをバイパスする空気量をISCV(アイドル・スピード・コントロール・バルブ)が変えることにより、アイドル回転を制御している。
 しかし、この車はISC用DCモータにより直接スロットルバルブを動かすという方式をとっている。
 また、このスロットルバルブの開度(スロットルセンサ信号)は吸入空気量の検出を行うという、あまりお目にかからないシステムのエンジンである。(通常、吸入空気量の検出はエアフロメータまたはバキュームセンサが行っている。)
 まず、ISC用DCモータが悪いかECUからの信号が悪いかを調べようと思ったが、依頼者にこれまでの作業状況を聞くと、ISC用DCモータが付いているスロットルボディは交換したという。
 その話を聞いたとき、吸入空気量をスロットルバルブ開度で検出し、そのスロットルバルブをECUで制御するには、スロットルバルブ全閉位置をECUに認識させる必要があるはずであると思った。(当然、新車時には行っている。)
 資料で調べると、ECU交換時はスロットル基準開度をECUに記憶させ学習させる必要があるとなっていた。また、スロットルボディ交換時には、ECUの初期化、再学習をしないといけないようになっていた。
 この車の場合、スロットルボディを交換しているので、当然初期化、再学習をしないといけないのに、なにもしていないという。
 図のBの手順でECUの初期化を行うと、アイドル回転も正常になり、加速時の息つきもなくなった。
 そもそも、なぜアイドル回転が不安定になったのかは不明だが、スロットルボディ交換後のアイドル回転が低くなったのは、故障ではなく、部品交換後の正しい作業をしなかったのが原因である。
 この車のように、最近の車は、より快適に車に乗れるようにECUが学習することが多く、バッテリ交換後などにトラブルが出たり、パワーウィンドモータ交換後に、挟み込み防止機能が正しく働かなかったりといったトラブルが出ることがある。
 また、イモビライザシステム搭載車では、部品を交換すると、エンジンがかからなくなったりといったこともあるので、それぞれの場合に応じた整備後の作業が必要になってくる。
 より快適に、より安全に、より便利になってくる車は、それだけ複雑な制御をしているわけであり、それを整備するメカニックにもそれ相当の知識が必要となってくる。
 整備士はあらゆるところにアンテナを張っておき、より多くの知識を蓄える必要があるのではないだろうか。
《技術相談窓口》

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