2008年2月
車高ダウンおよび幅広・偏平タイヤ装着の落し穴
(ユーザーへの的確な助言がプロの役割) |
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ホイールやタイヤを標準サイズから変更したり、車高を下げた車を見かける機会が増えてきたが、このような車のタイヤの偏摩耗やハンドルの操作性に不調を訴えるユーザーの声も多くなってきた。
当会に設置されているホイール・アライメント・テスターの利用件数も年々増加傾向にある。
足回り部品が新車時のままであれば、事故等でよほど大きな外力が加わらないかぎり、ホイール・アライメントが狂うことはないが、前述したように新車時の状態とは異なる足回りに変更された場合は、さまざまな影響を及ぼしてしまうので、ユーザーへの的確なアドバイスが欠かせない。
今回はそれらについて説明する。
まず、タイヤの偏平率を小さな物に変更した場合を
図1−(1)に示すが、キングピン傾角の延長線と、タイヤ中心線の距離で示す「スクラブ半径」が標準タイヤの時よりも大きくなってくる。
このことによって発生する現象は『ハンドルが重くなった』とか『路面によってハンドルがとられる』といったものである。
これらはいずれもスクラブ半径の増大によって、キングピン軸回りのモーメントが大きくなるためである。
同様の事は
図1−(3)に示すようなホイールのオフセットを小さな物に変更して、車体の幅ギリギリにする「面一(ツライチ)」と称するような状態にした場合も、まったく同様の現象になる。
次に車高を下げた場合であるが、
図1−(2)に示すようにネガティブキャンバーが増大する事で、スクラブ半径が大きくなってしまうため、前記内容と同様の結果をもたらしてしまう。
このネガティブキャンバーで困るのは、車検時に測定するサイドスリップ量である。
仮にトーがゼロとした場合、ネガティブキャンバーの影響でサイドスリップ量はIN(サイドスリップ・テスターの踏板を外側に押す)側に大きくなる。
これを是正するために、トーをOUT(サイドスリップ・テスターの踏板を内側に押す)側に調整せざるを得ない。
これでサイドスリップ量は保安基準値内に収まるが、これが大きな落し穴である。
ネガティブキャンバーによってタイヤの内側の摩耗が進み、トーをOUTにする事でますます内側の摩耗が顕著になってしまう。
人間の脚にたとえると、X脚で爪先を広げて歩くと靴の内側がすり減るのと同じである。
本来であれば、保安基準値を無視してトーをIN側にしなければ、ネガティブキャンバー車のタイヤの内減りは解決できない。
欧州車等のサイドスリップ量が、国産車のそれと異なっているのは、前述の事が理由のひとつでもある。
いずれにしても、車の見かけだけを優先して、車本来の機能や性能を犠牲にするような事をしてはならない。
しかし、このようなユーザーに限って色々な苦情を言って来るのが現実である。
なにごとにおいても、メリットがあれば必ずデメリットがある訳なので、プロのメカニックとしてはこのような事をしっかりと、アドバイスする必要がある。
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