後輪を激しくぶつける事故を起こした車の修理を終えて走行テストをしてみると、ABS警告灯が点灯したままになった'06年式のワゴンR(CBA‐MH21S、エンジン型式K6A、走行距離5万km)のトラブル事例。
事故修理の内容は、リヤアクスルおよびホイールとタイヤ等の足廻り部品の交換である。
ダイアグノーシスの操作要領を教えてほしいとの依頼があったので、資料をFAXしてその結果を待った。
電話での回答は、DTC「32」(右リヤ車輪速センサ信号異常)と「36」(左リヤ車輪速センサ信号異常)を表示したとの事であった。
2つのDTCは後輪左右の車輪速度がABS・ECUに入力されていない事を意味している。
前に述べた事故処理の際にリヤアクスルを交換しているので、車輪速センサをどうしたのかを確認してみると、センサ本体や配線にはダメージがおよんでいなかったので、従前の物を組み付けたとの返答であった。
信号の良否を点検するには、オシロスコープによる波形観測が必要になるので、車を持ち込んでもらう事にした。
車輪速センサ自体の抵抗値とECU内のインピーダンスに問題がない事と、両者を接続する配線に問題がないのを確認してから波形を調べてみると、まったく電圧変化が見られない。
ピックアップコイル式センサに電圧変化がないという事は、センサ部分に磁場の変化がないものと推測する。
ブレーキドラムを取り外して、バックプレートに取り付けられたセンサ先端の形状と、ハブ外周のシグナル・ロータのエアギャップが大き過ぎる事に気がついた。
センサの先端はマイナスドライバのようになっており、図1−(1)の状態になっている場合、シグナル・ロータとのエアギャップは10mm弱になる。
どう考えてもこれでは不自然なので、センサを取り付けているバックプレートの裏側から見てみると、その理由が判明した。
センサはアクスル両端のフランジ部分に1本のボルトで固定されているのであるが、どういう訳かボルト穴は2箇所設けられている。
そしてその位置は90°ズレた所に設けられている。
ボルトを外して、センサを90°回転させて遊んでいる方のボルト穴で固定すると、シグナル・ロータとセンサのエアギャップが正常になった。(図1−(2))
ホイールを取りつけてタイヤを回してみると、車輪速度に比例した交流波形がオシロスコープに現われるようになり、試運転してもABS警告灯が点灯する事はなくなった。
アクスルシャフトを共用するためなのか、それともセンサの種類が複数あるからなのかは知らないが、まぎらわしい構造である。
センサの中心から固定用ボルトまでのスパンを変えるなどの構造で、フールプルーフ対策を施しておかないと、『自分で作った落し穴にはまってしまう』可能性が高い。
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