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2011年5月
排気ガステスタの活用方法パート II
(違う使い方も考えてみよう)

エンジンが時々かからないという平成11年式のキューブ(車両型式GF-Z10、エンジン型式CG13)のトラブル事例を紹介する。

入庫後、症状を確認しようと思ったが、なかなか発生しなかった。

ただ、始動性が若干悪いと感じることは度々であったが、始動できないことは1度もなかった。

十数回試しているうちにあることに気がついた。それは、始動性が悪いと感じるのは、エンジン停止後、20分から2時間くらいの始動時であるということである。

3時間以上たてば始動性が悪いとはあまり感じなかったし、2時間以内でも一旦始動できた後、すぐにエンジンを切って再始動させても問題なかった。

つまり、エンジン停止後の20分〜2時間以内の再始動時の1発目だけが悪いということである。

この症状から最も考えられるのは、燃料が漏れているのではないかということである。

仮にガソリンがインジェクタから漏れていれば、今回の症状にピタリと当てはまる症状が起こるはずである。

では、どうやって燃料が漏れているかを確認するのか?漏れているとすればどのシリンダが漏れているのかを特定するのか?ということを考えてみた。

まず、漏れているかどうかは燃圧を測定すればいいのではないかと考えた。

燃圧計をセットし、エンジン停止後の圧力を見ていると、若干は下がるが1時間経っても1kg/cm²の圧力を保っていた。

予想では数分で0kg/cm²まで低下するのではないかと思っていた。

1時間で1kg/cm²というのは正常とはいえないが、ポンプのチェックバルブの気密が悪かった場合、普通の車でもこのくらい下がっても不思議ではない。結局、燃圧では判断できなかった。

では、シリンダ内に漏れたガソリンが溜まっているのではないかと思い、プラグを外してピストンの頭部を点検した。

しかし、特に液体が溜まったり湿ってはいなかった。

いろいろと考えた結果、排気ガステスタを使うことにした。

ガソリンはHC からできているので、仮にガソリンが漏れていれば排気ガステスタに反応するはずである。

また、漏れている場合、そのシリンダの特定ができるように、1番と4番を順番に圧縮上死点にして、2気筒分のインテークバルブが開いている状態で測定した。

すると、3番シリンダのインテークバルブが開いている時は、時間の経過と共にHC の数値が増え、20分後には10000ppm を超えるほどになった。他のシリンダは200〜2000ppm であった。

ただし、2000ppm あったシリンダはバルブの開いている状態から考えると、3番シリンダから漏れたガソリンがインテークマニホールドから回り込んだHC と思われた。

そのシリンダのインテークバルブを開いた状態にしても数百ppm にしかならないことからも、漏れていないと推定できた。

インジェクタを交換する前に、インジェクタクリーナに浸けておいたら良くなるかもしれないと思い、インジェクタを外してみた。

すると、この車はデリバリパイプとインジェクタが一体で外れるタイプで、デリバリパイプを外しても燃料が漏れない構造だった。

この構造なら、インジェクタの漏れが目視で判断できる。

念のため、目視で各インジェクタを調べると、3番だけに液体状のものが見られた。

各インジェクタをエアブローして、キースイッチをON にし、燃圧をかけた状態でインジェクタの噴射孔を調べると、2〜3秒後に3番のインジェクタは湿ってきて、1分もするとガソリンがインジェクタの先端に溜まってきた。(写真)

間違いなくインジェクタからガソリンが漏れていた。

一晩、インジェクタクリーナに浸けておくとかなり改善はされたが漏れが完全に止まることはなかった。

車に付けて確認すると、始動性は以前より格段によくなったが、時間によっては若干始動性が悪いと感じることもあった。

ユーザーの希望でこのまま様子をみるということになったのだが、始動性が悪い原因は漏れに間違いはなかったと思われる。

燃圧計で発見できないほどの漏れを、排気ガステスタは簡単に発見することができた。

先月号では排ガステスタを使い、エンジンの状態を推測したが、今回は排気ガステスタで燃料漏れを確認するという、本来と違う使い方を行った。

排気ガステスタに限らず、いろいろなテスタでも、役割や仕組みを理解して、本来とは違う形で活用することも時には必要ではないだろうか。


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