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2011年7月
DTC はあくまでも判断材料

<1>アクセルを踏んでいないとエンストするという、平成13年式エブリィ(車両型式GD-DA52V、エンジン型式F6A)のトラブル事例を紹介する。

「15」(クランク角センサ)を出力し、消去した後も車両を点検していると再出力することから、クランク角センサを他の車のものと交換してみたが改善されないという。

アクセルを踏んでいればエンストしないことと、吹け上がり等に問題がないことから、ISCV の抵抗値を測定するよう伝えたところ、ステップモーター式ISCV のコイル4相のうち、1相のみ1Ω であったとのこと。(正常な数値は30〜40Ω)

ISCV とECU を交換すると不具合は解消され、「15」(クランク角センサ)も出力しなくなった。

<2>エンジンがかからないという、平成17年式ワゴンR(車両型式CBA-MH21S、エンジン型式K6A)のトラブル事例を紹介する。

「P0335」(クランク角センサ)を出力し、消去した後もクランキングをすると再出力するという。実は2ヶ月前にも同じ症状で入庫し、そのときにクランク角センサは新品に交換しているとのこと。

オシロスコープにてクランク角センサの信号波形を確認すると信号が正常に出力されていたため、原因はほかにあるものと推測。

エンジンがかかることもあり、その時のアイドル回転がECU の目標アイドル回転数とかけ離れていたことからISCV の抵抗及びECU 側の抵抗を調べてみたが、電気的な異常とは判断できなかった。

このことから、アイドリング制御がうまくいっていないのはISCV の機械的なトラブルと思われる。

ISCV の制御がうまく働かなければエンジンが始動不能となる可能性もある(初爆させるための空気の量が足りなくなるため)ことから、試しに正常な車のISCV のバイパス通路を完全に塞ぎエンジンが始動できないようにしてクランキングしてみたところ、「P0335」(クランク角センサ)を検出した。

つまり悪いのはISCV であり、クランク角センサは犯人ではなかったのである。

今回の二つの事例は、クランク角センサの信号は入力されていたがエンジンが始動できないために、ECU が「回転信号が正常な信号ではないからエンジンが始動できない(もしくはエンジンが停止する)」と判断し、クランク角センサ異常のDTC を出力したものと思われる。

回転センサの信号の良否はオシロスコープを使用しなければ判断できないが、「アクセルを踏んでいればエンジンが始動できる」又は「アクセルを踏んでいればエンジンが止まらない」という症状であれば、回転センサの不良の可能性は非常に低くなる。

近年の自動車には自己診断機能が搭載されるようになり、故障探求が非常にスムーズに行えるようになった。

しかし、自己診断機能に頼りきってしまうと、今回の事例のように悪くない部品を交換してしまうことにもつながりかねない。

例えば、警告灯が点灯し、「P○○○○」(○○○センサ異常)と出力していても、センサ不良の場合もあれば、配線不良の場合もあるし、電源・アース不良の場合もある。

加えて、DTC の種類によっては、様々なセンサ信号を比較することにより、正常・異常を判断するものもある。

自己診断機能で検出したDTC はあくまで不具合箇所を絞り込むための手段と考え、「DTC=不具合の原因」という考えを持たないよう注意する必要がある。


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