エンジンが冷えているときに急減速すると、車両が停止すると同時にエンストしてしまうという、平成14年式ライフ(車両型式LA-JB1、エンジン型式E07Z)のトラブル事例を紹介する。
冷間始動時のファースト・アイドルはしっかり働き、減速時のエンスト以外は全く不具合がない。
スロットル・ボデーASSY を新品に交換し、ECU もそれまで問題なく走っていた車両のものを取り付けてみたが改善されないという。
不具合時(エンストする直前)のISCV は全開近くで制御されており、水温や空燃比の状態も悪くない(学習値、補正値の合計は−9%程)。
オルタネータの負荷による影響も考えオルタネータのカプラを外してみたが変化はなかった。
プラグを調べると碍子部分が白かったため燃圧を調べてみたが、約2.8kgf/cm2と問題なかった。
どうも制御側の問題ではないように思えてきたのでエンジン本体の点検を行ったところ、圧縮は16kgf/cm2と良好だったが、排気側のバルブ・クリアランスの値がかなり小さくなっていた。(吸気側は問題なし)
そこでバルブ・クリアランスを調整したところ、不具合が嘘のように解消された。
また、データモニタ上では空燃比の学習値、補正値の合計の数値に変化があり、−9%から+5%になっていた。
メカニズムを改めて考えてみると、排気側のバルブ・クリアランスが小さくなると、排気バルブが閉じるのが遅くなり、オーバーラップが大きくなる。
その結果、内部EGR が作用し燃焼が不安定になる。
冷機時のアイドリングはもともと不安定なため、EGR が作用すればさらに不安定になり、今回のような特定な条件下でエンストが発生したものと考えられる。
実はバルブ・クリアランスの不良を疑い診断初期の段階でアイドル・バキュームを測定していたが、−500mmHg と問題なかったためにバルブ・クリアランスに問題があるとは考えなかった。
実際にバルブ・クリアランスを調整した後の数値は−490mmHg と大差はなく、アイドル・バキュームの数値からバルブ・クリアランスの良否は一概には判断できないと実感した。
最近の自動車は大部分が電子制御になってきており、エンストに関するトラブルにおいてはまずISCV や電子制御スロットル等の「電気により制御されている部品」を疑ってしまいがちになるが、それらの制御はしっかりとしたコンディションのエンジン本体があってのものだ。
点検をおこなうときには電気的なトラブルを疑う前に、まずはエンジン本体の基本点検を実施することが重要と痛感した。 |