今回は以前にも紹介したことがあるシザースギヤについてのトラブル事例と、シザースギヤの構造や正しい作業手順を紹介する。
シザースギヤについてはトヨタが初めて採用してから25年近くが経過し、その後、ダイハツや日産でも同じ様な構造のものを見かけるようになった。
しかし、いまだにその構造を知らないがゆえに、修理で入庫した車に更なるトラブルを作ってしまった例を多く見聞する。
そこで、まずはシザースギヤの構造について説明する。
トヨタでは昭和61年にハイメカツインカムと呼ばれる、軽量でコンパクトなDOHC エンジンを開発し、カムリ・ビスタに搭載した。
このハイメカツインカムは従来のDOHCとは違い、片方のカムシャフトをタイミングベルトで駆動し、もう1本のカムシャフトは、タイミングベルトによって駆動されているカムシャフトのギヤによって駆動されているのである。
通常、ギヤが噛み合っている部分にはバックラッシュが必要であるが、バックラッシュは異音の発生源でもある。
それをこのシザースギヤは、機械的なバックラッシュを持たせつつ、見た目のバックラッシュを無くし、静粛性を向上させた素晴らしいシステムである。
このシザースギヤは図1にあるように、2枚のギヤと1個のスプリングから構成されている。
よって、何もせずにカムシャフトを外すとスプリングの力によって、サブギヤはドリブンギヤとは2〜3山ほどズレてしまう。
カムシャフトを外す場合の正しい手順は、ギヤ側面にあるサービスプラグに6mm(ダイハツは5mm)のサービス用ボルトをねじ込み、2枚のギヤがズレないようにロックしてから外さないといけない。
万一、ロックせずにカムシャフトを外すと2枚のギヤはズレてしまうが、その場合は、図2のようにして薄いサブギヤを回転させて正規の位置にしてサービス用ボルトで固定してやればよい。
《事例1》
VVT アクチュエータを交換したら、エンジン不調になった平成8年式ムーブ(車両型式L600S、エンジン型式EF-VE)
このシザースギヤのことを聞くと、全く知らないし、そのままカムシャフトを外したらしい。おまけに、そのズレたサブギヤに合マークを付けて組んだものだから、バルブタイミングが狂ってしまったようである。
《事例2》
オーバーヒートしたためにシリンダヘッドを中古と交換し、エンジン不調となった平成11年式ハリアー(車両型式SXU10、エンジン型式5S-FE)
この事例も同じくシザースギヤのことを知らずに、そのままカムシャフトを外したがために起こったトラブルである。
《事例3》
カムシャフトのオイルシール交換後、異音がするようになったという平成11年式ムーブ(車両型式L900S、エンジン型式EF-VE)
シザースギヤのことを知らずにカムシャフトを外したそうである。
知人からシザースギヤのことを聞いて、元の状態に戻せるかという問い合わせ。
シザースギヤをロックせずに外した場合は、図2のように、サブギヤにM6のボルトを取り付け、ドライバーで正規の位置まで回転させロックしてやればよい。
《事例4》
トラブル相談ではないが、平成12年式エルグランド(車両型式ATWE50、エンジン型式ZD30DDTi)のインジェクションポンプを交換するのだが注意点はあるかという問い合わせ。
このエンジンにはシザースギヤ付きアイドラーギヤが使われており、アイドラーギヤの両側面にそれぞれサブギヤが付けられている。
修理書ではこのアイドラーギヤをロックせずに外した場合は、再使用不可であり新品と交換しないといけないとなっているので注意が必要である。
なお、トヨタ車はコーションプレートのエンジン型式に「○○-FE」というふうに、「F」がつけばハイメカツインカムであり、ダイハツ車はEF-VE、EF-DET がハイメカツインカムである。
この記事のシザースギヤ脱着時の注意点については、社員全員に周知してもらいたい。
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