クランキングしてもエンジンが掛らないという、2007年式のホンダ・エアウェイブ(DBA・GJ1、エンジン型式L15A、走行距離3万km)のトラブル事例。
イグニッション・スイッチをONすると、エンジン警告灯が点灯して数秒後に消灯するので、ホンダ車としては正常な状態にある。
スキャンツールを接続して調べてみると、DTC(ダイアグノーシス・トラブル・コード)は何も異常検出はしておらず、手掛かりになるものはなかった。
基本点検をおこなってみたところ、点火火花が飛ばずフューエル・インジェクターの作動音もしていないことが確認できた。
通常であれば、点火火花とフューエル・インジェクターの両方が作動しない場合は、エンジン回転信号が正しくECUに入力されていないことを疑うのがセオリーであるが、前述のようにDTCはそのことを検出していな
い。
ECUの警告灯が正常に機能している事から、ECUの電源とアースには問題はないが、アクチュエークの電源等に問題が有るのかもしれない。
イグニッション・コイルとフューエル・インジェクターの電源電圧を測定するために、イグニッション・スイッチをONにした時、メーターパネル内にある緑色のランプが点滅しているのに気付いた。
そのランプは図1に示すもので、「イモビライザー」の作動状態をドライバーに知らせるためのものである。
車に搭載されている取扱説明書を読んでみると、エンジン始動前にこのランプが点滅している場合は、不正キー使用によるエンジン始動とみなして、エンジン始動を許可しない仕組みになっている事が確認できた。
わかりやすく説明すると、キーは機械的に複製できても、暗証チップによる電気的な鍵が一致しないとエンジンが始動できないようにする、保安基準第11条の2で定める施錠装置のひとつである。
スキャンツールでデータモニタしてみると、イモビライザーの項目が「BAN(禁止)」と表示されていた。
ユーザーにキーの事を聴いてみると、昨日まで同じキーを使っていたとの回答が得られたので、不正キーではない事が確認できた。
スペアキーを届けてもらうように手配して、その間に今あるキーを分解してみると、内部に緑青が発生していた。
腐食によって、トランスポンダの暗証チップの符号をキーシリンダー部分のアンテナが読み取れなくなって、イモビライザー機能が働いてしまったものと考える。(図2参照)
だめもとを承知の上で、内部の回路等をきれいに磨いて組み付けてみると、鍵の形をした緑色のランプが消灯して、イモビライザー「RUN(作動)」表示に変わり、エンジンが始動できるようになった。
しかしこのままでは信頼性に欠けるので、しばらくはスペアキーをメインキーとして使用して、新たにスペアキーを作製してもらうように説明して納車した。
今回の事例は、車自体の「故障」には当てはまらないかもしれないが、正しく機能を理解していないと、原因究明が遠回りになりかねない。
ふだん取扱説明書を読む機会は少ないと思うが、ユーザーが知らないのは許されても、プロが知らないというのは如何なものだろうか。
〈技術相談窓口〉
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