車は平成17年式ワゴンR(車両型式MH21S、エンジン型式K6A)で、時々、エンストすることがあるというトラブル事例。
この車、2ヶ月ほど前にも同様のトラブルで入庫し、ダイアグノーシスでコードPO335(クランク角センサー系統異常)を表示していたので、クランク角センサーは新品に交換したそうである。
そして今回の入庫でも、前回同様にコードPO335を表示したそうである。
エンストはめったに発生しないらしく、依頼者の工場でも1度も発生していないという。症状が確認できないという、故障診断で最も厄介なトラブルである。
こういった場合は、問診をより詳しくする必要がある。すると、次のことがわかった。
エンスト後は、再始動できるときと出来ないときがあり、再始動できてもアイドル回転が低くエンストしそうになったそうである。
また、アクセルペダルを踏めば始動できたが、離すとエンストすることもあったようである。
このことから、不具合発生時にはISCVが作動していないことが推定された。
ISCVが作動しなくてエンストするということであれば、スロットルバルブ周りが汚れていることが予想される。
試しに暖機後のアイドリング状態で、ISCVのエアの吸入口(写真)を指で塞いでみた。スロットルバルブ周りに汚れがなければ、少しはアイドル回転は下がるがエンストはしないはず。
しかし、実際にはエンストした。これはスロットルバルブ周りが汚れていることになり、ISCVが開かなければアイドル回転は低く、エンストする可能性があるという証拠である。
この車に限らず、同様のトラブルは多く経験しているが、そのほとんどがISCVのコイルの断線か短絡によるものである。
ISCVの単体点検を行うと、4つのコイルはそれぞれ35〜37Ωであり問題なかった。
今は正常にアイドル回転制御が働いているので当然の結果である。
気になるのは、この不具合が出たり出なかったりすることである。今までのトラブル車では、ISCV自体が悪い場合は常に不具合が出ていることがほとんどであった。
それから、もう1つの疑問がPO335のトラブルコードである。
センサーは新品なので良好とすれば、あとはローターかエアギャップに問題があるということになる。
クランク角センサーの波形や、ローター、エアギャップを調べたが、特に悪いと思えるところは無かった。
これらの点検をしていると、アイドル回転が1300回転から下がらなくなることがあった。
診断機でデーターを見ると、目標アイドル回転は800回転で、ISCVの駆動信号は1桁であった。
これらから、現在、ISCVが機械的に開いており、ECUはISCVを閉めようとしているのに、ISCVが動かずにアイドル回転が1300回転と高いということが推定された。
お客さんが訴える症状は、今とは逆にISCVが閉じ側で動かなくなるのではないかと思われる。そうであれば、エンストや再始動が出来ない、出来てもアイドル回転が低いという原因は説明が付く。
しかし、PO335のトラブルコードが出るのかがわからない。
もしかして、エンスト後、クランキングをしてエンジンがかからないとPO335を表示するのではないかと考えた。
試しに、スロットルボデーの入り口全体を手で塞いでエンジンがかからないようにした。そのままの状態でクランキングを行ったがダイアグコードは正常だった。
先ほどのクランキングは2〜3秒だったので、次は長めの10秒ほどクランキングしてみた。もちろんエンジンはかからない。
すると、今度はダイアグコードP0335を表示したのである。
何故、このような場合に、このトラブルコードを表示するのかは不明だが、何台かのワゴンRを調べると、同様のトラブルコードを表示する車もあったが、年式が新しいワゴンRでは異常コードは表示しなかった。
もしかすると、このトラブルコードを表示するのはある年式に限ったことかもしれない。これで、全ての現象に説明がついた。
スロットルバルブ周りが汚れていて、ISCVが機械的に動きが悪くなることがあると、それが閉じ側の時だとエンストが発生。
クランキングしても吸入空気量が少ないためで再始動ができない。クランキングを長く続けると、ECUのプログラム上、クランク角センサー系統異常というダイアグコードを表示するのである。
スロットルバルブの清掃、ISCVの交換をしてしばらく経過するが不具合は発生していないようである。
まとめると、エンスト後、再始動できないがアクセルペダルを踏めば始動できる。
もしくは、再始動できてもアイドル回転が低い。しかし、ECUはアイドル回転を上げようとする駆動信号を出力している場合は、ISCVが作動していない可能性が高い。
また、逆にECUはアイドル回転を上げようとする駆動信号を出力しているにも関わらずアイドリング回転が低い場合は、やはりISCVの不良が疑われる。
この車に関しては、ダイアグコードPO335を表示した場合、これらを合わせて調べなければ、誤診断につながる可能性があるので注意が必要である。
また、エンジンがかからずに長いクランキングを行ったことがあるかどうかも確認する必要がありそうである。
〈技術相談窓口〉
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