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2013年7月
エアコンのトラブル・シューティングにもスキャンツールが必要

エアコンの効きが悪くなったと云う、2008年式のスズキ・パレット(DBA-MK21S、エンジン型式K6A、走行距離4万q)のトラブル事例を紹介する。

ブロアーモーターの風は生温く、コンプレッサーが作動していない感じである。

A/CスイッチをON-OFFさせてコンプレッサーのマグネット・クラッチの様子を目視点検すると、作動していることが確認できた。

次にゲージマニホールドを接続してみると、高・低圧共に520KPaであった。

このことから、冷媒は充填されているものの、サイクル内を循環していないと考えられる。

これまでの点検内容から判断すると、コンプレッサーのトラブルと考えるのが一般的である。

ところが、この相談を持ちかけてきたメカニックが、自社のスキャンツールを接続した結果、「UO164」のDTC を表示するというのである。

そのDTCは、「CAN通信受信異常・A/C」という内容である。

これが原因ではないかという疑問を抱いており、いまひとつコンプレッサーの交換に躊躇しているのだと言う。

持参したスキャンツールでデータモニタしてみると、エアコンの要求信号が入力されて、マグネット・クラッチがON したことが確認できた。(図1参照)

しかし、コンプレッサーが作動しているにもかかわらず、冷媒圧力センサーの数値とエンジン負荷が変化していないことが見て取れる。

エンジン負荷は、スキャンツールを用いない限り調べることができないもので、エンジンの状態を知るには、非常に便利なものである。

また、冷媒の圧力(高圧側のみ)も調べることができるので、とても助かる。

エアコンの制御は図2に示すようなブロックになっており、それらはCAN通信で接続されているので、一昔前のようなエアコン単独の制御ではないことを理解しなければならない。

今回のトラブルの原因は、最初の推測どおりコンプレッサーの機械的故障であった。

分解したコンプレッサーは、図3のように内部のベーンが固着しており、まったく圧縮機として機能していないことがわかる。

中古車を購入しているので過去の整備歴が不明であるが、なんらかの原因でコンプレッサーのオイルが流出したために、今回のトラブルに至ったものと思われる。

前述のDTCを検出した理由は、エアコンコントローラからの指示信号をBCM&J/Bが受けて、その命令でECMがコンプレッサーのマグネット・クラッチを作動させたにもかかわらず、冷媒圧力がまったく変化しないために、CAN通信を通じて正常な信号が返ってこなかったためである。

したがって、メカニックが心配していたCAN通信の回路に問題があってこのようなトラブルになった訳ではないのである。

コンプレッサーを交換すると、冷媒圧力が1,500KPaまで上昇して、爽やかな冷風が出るようになった。

今回のトラブルのように、最近の車の制御はCAN通信を核としておこなわれているので、エアコンの故障診断にもスキャンツールが欠かせない。

来月末に、このような内容の研修会を開催する予定にしていますので、巻頭の開催要項を見ていただいて、多数の参加を期待しております。

〈技術相談窓口〉

 


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