Dレンジで変速しないことがあり、その場合は発進加速が鈍いという平成10年式パジェロミニ(車両型式E-H56A、エンジン型式4A30)のトラブル事例を紹介する。
この車のミッションは電子制御式3速オートマチックトランスミッションであるが、この車に限らず、電子制御式オートマチックトランスミッションの変速異常時のトラブルシュートの方法は、どのメーカーのどのミッションでも基本は同じである。
オートマチックトランスミッションの変速がおかしい場合、とりあえずミッション本体を交換するという工場を見かけるが、整備の方法としては大間違いである。
まず最初に行なわなければならないのはダイアグノーシスの点検で、異常コードが記憶されていれば優先してその異常コードの系統を調べる必要がある。
もし、ダイアグノーシスで異常コードが無い場合は、不具合の原因が電子制御系にあるのかミッション本体にあるのかを切り分ける必要がある。
このパジェロミニの場合、ダイアグノーシス機能が無かったので、原因がどちらにあるのかを切り分けることにした。
切り分けの方法を説明する前に、電子制御式オートマチックトランスミッションの変速制御を簡単に説明する。
ミッション内のコントロールバルブには、通常、変速を行うためのシフトソレノイドが2個取り付けられている。(車によっては3個以上の場合がある。)
シフトソレノイドはECUの制御信号(0Vまたは12V)によりON/OFFする。
このシフトソレノイドがON/OFFすることでコントロールバルブ内の油圧が切り替わり、遊星歯車の入力、出力、固定箇所が変化し変速比が変わるわけである。
ECUは車速とスロットル開度によって適切な変速位置になるように、2個のシフトソレノイドにON/OFF信号を出力するので、2つのソレノイドのON/OFFの組み合わせは全部で4通りになる。(次に一例を紹介)
つまり、変速がおかしい場合は、シフトソレノイドの通電状態を調べれば、制御系がおかしいのかミッション本体がおかしいのかがわかる。
例えば上の表の車の場合で、1速のまま変速しないというトラブルがあった場合、シフトソレノイドの通電状態を2つのサーキットテスタで調べるのである。
その時、ソレノイドAがON(12V)でソレノイドBもON(12V)で発進し、しばらくしてシフトソレノイドAがOFF(0V)になったとする。
ソレノイドAがOFF、ソレノイドBがONというのは2速になるための組み合わせなので、ミッション本体が正常であれば、変速ショックがあり2速にならないといけないはずである。それが、変速ショックもなく1速のままであればミッション本体の不良である。
これが、シフトソレノイドAもシフトソレノイドBもずっとON(12V)であれば、1速の組み合わせなので、当然ミッションは2速には切りかわらない。この場合は制御系の不良である。
制御系かミッション本体かの切り分けができれば、それぞれに関する点検が必要である。
前置きが長くなったが本題に入ろう。
このパジェロミニの場合、シフトソレノイドの組み合わせは次の通りである。
2つのシフトソレノイドバルブの電圧をサーキットテスタで調べながら走ってみると、しばらくは上の表の組み合わせで変化しており、正常に変速が行われていたが、少しすると発進が鈍くなった。
通電状態を見るとOFF、OFFになっていた。表にはOFF、OFFという組み合わせがないのだが、どうも3速状態になっているようだった。よって、発進が鈍かったのである。
発進時に正しい組み合わせ以外の信号が出るのは制御系に原因があり、それもECU系に原因があるとしか思えない。
ECUの電源とアース端子が正常であることを確認しECUを交換した。
今回は発進時に有り得ない組み合わせの制御信号が出ていたのでECU不良と判断したが、これが1速のままの制御信号だった場合は、さらに車速センサーやスロットルセンサーの信号の点検が必要になってくる。
なお、今回と同様のトラブルに関しては新品のECUに交換することを強くお勧めする。
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