暖機後の再始動時にエンジンのかかりが悪い時があるという、平成12年式ムーヴ(車両型式GF-L902S、エンジン型式JB-DET)のトラブル事例を紹介する。
問診したところ、冷間時は全く不具合が発生せず、必ず暖機途中もしくは暖機後にしか発生しないらしい。
さらに、再始動時の不具合は、エンジンを停止してから10分程の間に再始動すると発生しやすいとのことである。
これらの条件から、インジェクタからの燃料の後だれを疑ってみたが、問題はなかった。
次にクランク角センサの信号波形を調べてみたが、不具合時に波形の乱れ等は確認できなかった。
手がかりがつかめないまま何度か不具合の再現を確認していた時に、ふとクランキングの最中にエンジンの回転が途中で引っかかることがあることに気が付いた。
火花が正常なタイミングで飛んでいない時に発生するような症状である。
しかし、クランク角センサの信号には異常はみられない。
念のため、クランク角センサの信号と点火指示信号の波形を同時に調べてみたところ、クランク角センサの信号は正常にもかかわらず、点火指示信号の波形に乱れがあるときがあった。(図1参照)
クランク角センサの信号波形が正常にもかかわらず点火指示信号がおかしい場合には、ECUの不良が疑われるため、ECUの電源・アースを確認したが問題はなかった。
以上の結果から、ECUの中古品を取り寄せてもらい組み付けたが、不具合は改善されなかった。
点火系のトラブルには間違いがないため、再度コイル、プラグを細かく点検していると、本来この車に使用されているスパーク・プラグではないスパーク・プラグが取り付けられていることが判明した。(図2参照)
抵抗付きのスパーク・プラグを抵抗無しのスパーク・プラグに交換してしまい、ノイズによるトラブルが発生するということはあるが、今回はどちらも抵抗付きで、品番と形状が違うだけであった。
これが原因でこのようなトラブルが発生するものかどうか半信半疑であったが、とりあえずスパーク・プラグを交換してみたところ、不具合が嘘のように治まってしまった。
ここからは推測になるが、JB-DETエンジンは2気筒同時点火の方式になっている。
このため、スパーク・プラグのギャップは1.1oではなく、0.8oのものが採用されている。
つまり電気は、コイル→1.1o のギャップ→エンジン本体→1.1o のギャップ→プラグ・コード→コイルの順番に流れる。
本来のスパーク・プラグのギャップは0.8oのため、0.3o×2倍のギャップを飛び越えるエネルギーが余分に必要になる。
この余分なエネルギーを発生させる際のノイズがECUを誤作動させていたものと考えられる。
「たかがプラグで」と思ったが、「されどプラグ」であった。
納車後、2週間ほどしたのちに確認の電話を入れてみたが、不具合は発生せずに順調とのことであった。
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