冷機時だけの始動性が悪いという平成12年式サンバ(車両型式GD-TV1、エンジン型式EN07)のトラブル事例を紹介する。
話を聞くと、元々は走行中にエンストするということで入庫し、カム角センサーが悪かったので交換したら良くなったとのこと。
その後、しばらくしてからこの不具合を訴えてきたようで、今回はECUも交換してみたがよくならなかったそうである。
まずはダイアグノーシスを点検したが正常コードだった。
次に、始動できない時の火花とインジェクタを調べると、火花は飛んでおらずインジェクタも作動していなかった。
火花もインジェクタもNGということは、エンジン回転系センサー(この車の場合はカム角センサー)、ECU系統(ECU自体、電源、アース)が疑われる。
しかし、カム角センサーは新品に交換しており、ECUも中古だが交換しているのである。
部品が良品だとすると、後はECUの電源、アース、あるいはカム角センサーの配線しか考えられない。
ただし、スキャンツールの通信ができるので、ECUの電源・アースは問題ないと思われるが、念のため点検してみた。
キースイッチON時とクランキング時のECUの電源、アースを調べたが問題なかった。
こうなると交換した部品も疑わないといけない。
カム角センサーの配線を含めた点検を行うために、カム角センサーの波形をオシロスコープで調べたがどうもおかしい。
エンジンがかからない時の波形と始動後の正常時の波形を比べると、エンジンがかからない時のクランキング時は、1つの信号が抜けているような気がするのである。(図1)
ただ、クランキング時の不安定な状況なので正確な波形かどうかが分からない。
それに、仮に歯抜けだったとしても、その時は点火時期や噴射時期が狂うだけで、火花が飛ばないということはないような気がするのである。
今のところカム角センサーが怪しいが交換しているという。まさか中古ではないだろうかと思い、外して確認してみたが新品だった。
しかし、部品の社名をみると社外品だった。依頼者にも確認すると、確かに社外品と交換したという。社外品が悪いというわけではないが、純正品に比べればやはり信頼性は落ちる。
症状や点検結果からはどうみてもカム角センサーが怪しい。
どうにかカム角センサーの不良と断定できないものかと考えた結果、暖機後にカム角センサーを冷やしてみることにした。
現状では、不具合は朝一番の冷機時のみ始動ができないだけである。しかし、クランキングを何度か繰り返しているうちにかかったり、昼過ぎにクランキングすると正常にかかったりするのである。
その後は何時間エンジンを冷やしても問題なく始動出来る。
仮にカム角センサーが低温により異常信号が出ているのであれば、完全暖機後にカム角センサーだけを冷凍庫で冷やせば不具合が出るのではないかと考えたのである。さっそく試すことにした。
エンジンを完全暖機状態にし、カム角センサーを外して冷凍庫に入れて冷やしてみた。
15分ほどたってカム角センサーを車につけてみた。今までだと問題なくエンジンはかかるはずである。
しかし、冷やしたカム角センサーでは始動できなかった。火花とインジェクタの状態を調べたが、共にNGであった。
その後、3分ほど経過するとエンジンはかかるようになった。
このことを3度ほど繰り返したが、結果はすべて同じであった。
カム角センサーだけを冷やすと、不具合現象が再現できるのである。これでカム角センサーが原因だと確信が持てた。
カム角センサーの歯抜けにより、なぜ火花が飛ばずにインジェクタが作動しないのかは不明だが、カム角センサーが悪いのは間違いないようだ。
純正品のカム角センサーに交換すると、冷機時でも不具合は出なくなった。
今までに行った技術相談でも、「○○の部品が原因ですよ」と言うと、「それは交換したばかりだから調べなかった」という人がいる。
しかし、新品でも良品とは限らないのである。もちろん純正部品でも同様である。
《技術相談窓口》
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