停車状態から発進する時に車が重く感じられ、発進がスムーズにいかないという、平成27年式のミラ・イース(DBALA300S、エンジン型式KF、走行距離3万q)のトラブル事例を紹介する。
走行してみると、平坦路であるにもかかわらず、確かにアクセルペダルの踏み込み量に対して車の挙動が鈍く、思うように発進する事が出来ない。
ところが、その状態が数秒間続いた後に、突然思い出したように勢いよく発進した。
エンジンのトラブルではなく、駐車ブレーキを解除し忘れた時の状態に似ている。
スキャンツールを接続してそれぞれの装置を点検してみると、ABS のアクチュエータのひとつであるマスターシリンダー・カット・ソレノイド・バルブが、発進時にON したままになっている事がわかった。(図1参照)
これは、アイドリング・ストップ機構と連動して機能する、ヒル・スタート・システム(坂道発進補助装置)が作動状態にある事を示唆している。
本来この機能は、図2のように登り勾配での停車状態から、発進するまでの間に停車直前のブレーキ操作による液圧を保つ事で、ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替える間の、後退を防止するものである。
平坦な道路ではこの機能が働く必要はないので、道路の勾配を検出する必要があり、そのセンサはABS アクチュエータと一体になったECU に内蔵されている。(図3参照)
G センサの信号をスキャンツールでモニターしてみると、平坦路において0.8m/s2 であった。
これは平坦路における数値ではなく、登坂路状態を示すものである。
G センサが取り付けられているABSアクチュエータの取り付け状態を調べてみると、どうみても傾いた状態にある。
取り付けのブラケットが変形しているようなので、バンパーとヘッド・ライトを外してみて、その原因が判明した。
図4でわかるように、クロス・メンバとサイド・メンバが交わる部分に変形が認められ、この衝撃によって前述のブラケットが変形した事で、G センサが間違った検出をしていた訳である。
図5に示すブラケットの曲りを修整して、G センサの数値が0.2m/s2 以下になった事を確認して走行してみると、引きずり感は解消した。
このような機能が組み込まれている事を、しっかりと理解したうえで板金作業をおこなわないと、今回のような事態になってしまうので、レーダーやカメラのエーミング調整だけに気を取られる事なく、システム全体に気を配る必要がある。
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