本紙8月号の「実践!整備事例」で紹介した事例に続き、エンストする意外な原因−そのA−を紹介する。
減速時にそのままエンストしてしまうことがあるという、平成13年式エルグランド(車両型式APE50、エンジン型式VQ35)の事例。
加速時の不調等は無く、アイドリングを続けている際にはエンストすることはないらしい。
再始動は良好で、エンジンがかからな
くなることはないという。
アイドリング時のエンストや、減速時に車両が停止すると同時に、また車両が停車する直前にエンストするとなると、真っ先に思い浮かぶ部品がISCVである。(近年の自動車では、電子制御式スロットルバルブが採用されているためISCVが無くなっている。この場合はスロットルボデーの汚れ等)加えて、VVTが走行中に進角したまま戻りきれずに発生するエンストや、走行中に作動していたEGRバルブが、作動を完了してもEGR通路を閉じ切れておらずにエンストしてしまうということ
も考えられる。
今回は再始動が可能ということと、アイドリング中にラフアイドルになったりすることはないとのことなので、まずはISCVの一時的な作動不良(作動遅れ)を疑い、点検してもらうことにした。(VVTやEGR不良の場合は、少なからずラフアイドルになったり、始動不能/始動不良が発生する可能性があると考えたため)この車両のISCVはステップモーター式で、配線は6本タイプであった。
まずは抵抗を測定してもらうと、4相全て20Ω。ISCVを取り外し、単体の状態でコネクタだけを接続し、キーON/OFF時のイニシャルチェック作動を目視で確認してもらうも、スムーズに動くという。単体でスムーズに動くからエンジンに装着した状態でも問題はないと判断することはできないが、ISCVにトラブルがあるようには思えなかった。
本格的に車両を預かり、VVTも調べる必要がでてくるかと思案し始めていたところ、相談者が「強めにブレーキを踏むと不具合が発生しやすい」と言っていたことを思い出した。ひょっとしてと思い、ATFが漏れた形跡がないか確認してもらったところ、形跡があるという。
その後の調べで、ATFの量もかなり少ないことがわかった。
ATFを補充して試運転をしてもらうよう伝えたところ、不具合は発生しなくなったと連絡を受けた。
原因はこうだ。
ATFが極端に少なくなると、ブレーキング時に減速GでATFが車両前側に向けて大きく傾く。その結果、ストレーナーのオイル吸い口周辺にATFが無くなってしまい、A/Tのオイルポンプ負荷は一気に軽くなる。
車両が十分な減速を完了すると、前方に傾いていたATFは元に戻るため、ストレーナーのオイル吸い口周辺はATFで満たされる。
ほぼ無負荷で回転していたオイルポンプが、急にATFを吸い上げはじめ、一気に負荷が大きくなる。
この負荷の変化にエンジンの制御が追い付けずにエンストしていたというものであった。
最後に、このトラブルはA/Tのオイルパンの形状が、車両の前後方向に縦長になってしまうFR車特有のトラブルであることを付け加えておく。
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