エンジン始動不能の平成20年式クラウン(車両型式GRS182、エンジン型式3GR-FSE)のトラブル事例を紹介する。
相談者の工場でも既に調べており、どうもECUが不良ではないかとの結論になったのだが、念のためにと相談の電話をくれたようである。
ECU不良と判断した理由を聞くと、キーONでエンジン警告灯が不灯で、スキャンツールとの通信が出来ない。また、冷機時にも関わらずキーONで電動ファンが回ったり、燃料ポンプ(燃料タンク内の低圧ポンプ)の電源が供給されていないことが理由とのこと。
ただし、朝一番、エンジン警告灯は点灯しており、スキャンツールとの通信もできるのだが、一度、クランキングすると、その後は前述の症状になるという。
確かに、キーONでエンジン警告灯が不灯だったり、スキャンツールとの通信が出来ない場合は、ECU不良の可能性が高い。
しかし、その場合はECUの電源やアースが問題ないことを点検する必要がある。
そのことを相談者に言うと、すでに点検しており問題なかったのでECU不良ではないかと判断したようである。
そうであればECU不良と判断しても不思議ではないのだが、実はもう1つ点検しなければいけない箇所があるのである。
それはECU内の5V安定化電源回路であり、Vc電源ともいわれている。(図1)
このVc電源は何をしているかというと、ECU内のマイコンやメモリなどを動かす電源になっており、また、センサーの電源にもなっていることもある。
よって、センサーの電源になっているVc電源回路がアースとショート(地絡)すると、それにつながっているECU内のマイコンの5V安定化電源も0VになりECUが作動しなくなるのである。
ただし、中にはマイコンとセンサーと別々の5V安定化電源回路を持っているECUもあり、その場合は、センサー側の5V安定化電源回路がショートしてもECUの作動には影響は出ない車種もあるようである。
そこで、この車のVc電源を配線図で調べてみると、左右バンクのカムポジションセンサーとフューエルプレッシャーセンサーの電源になっていることがわかった。(図2)
仮に、Vc電源回路が地絡していた場合、クランキング後に不具合が出るということを考えると、怪しいのはフューエルプレッシャーセンサーである。
これは、過去にも似たような事例があり、クランキングで燃圧が上がることにより、センサー内部でショートが起こるようである。
そして、しばらくすると燃圧が下がり、ショートがなくなるのである。
相談者には、フューエルプレッシャーセンサーのVc端子電圧を測定するか、コネクタを抜いてみるよう説明した。
しばらくして電話があり、コネクタを抜くと、エンジン警告灯が点灯し、それまで通信できなかったスキャンツールが通信できるようになったそうである。
やはり、センサー内部でのショートだったようである。
ちなみに、センサー単体の設定はないと思われるので、デリバリパイプASSYでの交換が必要である。
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