走行中に力がなくなり、エンジン警告灯が点灯。「P0350」(点火信号系)のDTCを検出。
1番シリンダが失火しており、火花が飛んでいなかったため、1番シリンダのイグニッションコイルとスパークプラグを交換したが、それでも火花が飛ばないという、平成21年式スズキKei(車両型式ABA-HN22S、エンジン型式K6Aターボ)の事例を紹介する。
イグニッションコイルを新品に交換しても改善しなかったので、現在は元から付いていたイグニッションコイルに戻しているそうだ。
さらに話を聞いたところ、2番シリンダと3番シリンダは正常に爆発しているが、1番シリンダはインジェクタも作動音が確認できないため、作動していないのではないかと思われるとのことであった。
インジェクタが作動していないのは、失火検出の際のフェイルセーフが考えられるため、まずは先にイグニッションコイルの電源とアースを測定したが、問題はなかった。
次にエンジン回転中の点火信号をオシロスコープで測定したところ、点火信号が出力されていなかった。
点火信号は一般的にはECU側から約3〜5Vの電圧を瞬間的に流すことにより、イグニッションコイル内のトランジスタをON/OFFさせ、それによりイグニッションコイル内の1次コイルに流れる電流を断続している。
したがって、イグニッションコイル側で点火信号が確認できない場合は、点火信号線の断線が考えられる。
このため、ECU側でも波形を測定したが、やはり信号の出力は無かった。
全てのシリンダの点火が行われていない場合は、点火信号を出力するための情報元として、クランク角センサやカム角センサ等の波形測定が必要となるが、今回は2番と3番シリンダが正常に爆発しているようなのでひとまず後回しにした。
このままでは、診断結果はECU不良となるのだが、実は点火信号が確認できないパターンがもう1つだけ残っている。
それは点火信号線がアースにショートしている場合である。
本来であればECUから出力された点火信号は、イグニッションコイル内のトランジスタをONさせるのだが、点火信号線がトランジスタを通らずにアースする回路が生じていた場合や、トランジスタ自体がショートしている場合がこれにあたる。
この場合、点火信号線は常にアースに繋がったままになっているので、波形を調べても0Vのままとなる。
あまり経験したことの無いケースであるが、念のためECUのカプラ部でイグニッションコイルの信号線とアースの導通をサーキットテスタで確認してみたところ、0.3Ωだった。
配線のショートかイグニッションコイル内部のショートかを切り分けるため、測定している状態でイグニッションコイルのカプラを外してみたところ、測定値は∞Ωに変化した。
イグニッションコイル内部回路のショートで間違いない。
確認の為、イグニッションコイル本体の点火信号端子とアース端子の導通を調べたが、0.2Ωであった。
考えられることは2つのケース。
1つ目は、イグニッションコイル内部の点火信号回路がショートしたことにより、点火信号出力時にECUから過電流が流れるという状況が続いたため、最終的にECUが壊れたというケース。
2つ目は、先にECUが何らかの原因で点火信号が出力されたままになるという壊れ方をし、その影響でイグニッションコイルが壊れ、後にECUも点火信号を出力できなくなったというケース。
(2つ目のケースについては、本年4月にスズキキャリィトラックで実際に体験)
いずれにせよ、ECUとイグニッションコイルはそのまま使用できないので、ECUとイグニッションコイルを念のため全数交換し完治した。
ISCVのショートによりECUが壊れたという事例はたくさん経験してきたが、仮に今回のトラブルがケース1であった場合、イグニッションコイル内部のショートでECUが壊れたということになる。
このようなケースも起こり得るという貴重な体験ができた事例であった。
《技術相談窓口》
|