停止直前にブレーキペダルに振動があるという平成12年式ヴィッツ(NCP15、2NZ)のトラブル事例を紹介する。
この車(4WD)はリヤアクスルシャフトのオイルシールの交換を行ったのだが、入庫時にはこんな症状はなかったという。
試乗すると、確かに停止直前にペダルに振動が来る。どうもABSが作動しているようだった。
ただし、実際にABSが作動するような急ブレーキをかけているわけではなく、通常の踏み方をしているにもかかわらず誤作動しているようだった。
こういった場合は、4輪の車速センサーのうちどれかが実際より低い速度を表示していることが多い。
それを確認するために、スキャンツールのデータモニタ機能でABSの各ソレノイドの作動及び4輪の車速センサーの信号を調べてみた。
すると、リヤ右以外の3輪はほぼ同じ数値だったが、リヤ右だけは0km/hのままだった。
ただし、スピードを上げていくと4輪の速度はほぼ同じになった。
そしてブレーキペダルを踏んで減速していくと、途中からペダルに振動があり、その時のデーターは、RR輪車速以外の3.84km/hに対して、RR輪車速は0km/hだった。
さらにその状態では「ABS RR制御中」という項目がONになっていた。
つまり、リヤ右のタイヤ速度が0km/hなのでロックと判断し、ABSを作動させていたようだ。
オシロスコープでリヤ左右の車速センサーの波形を調べると、リヤの左右差は一目瞭然だった。
(上がリヤ右、下がリヤ左の車速センサー)
これではリヤ右は信号として検出できないのでABSが誤作動しても不思議ではない。
車速センサーはリヤアクスルハウジングに取り付けられており、オイルシール交換時に脱着したということである。
その時の取付状態が悪くエアギャップ(センサーとローターのすき間)が広いのではないかと疑い点検したが、特に悪くはなかった。
車速センサーの抵抗を測定したが、左右ともほぼ1.2kΩと問題なかった。
また、センサーを外してローター側も調べたが、特に左右で違いはなく、全周に渡って歯欠けもなかった。
抵抗が良くてもセンサーが良いとは限らないので、左右で入れ替えてみようかと考えたが、センサーの取り付け部が若干汚れているようなので綺麗に磨くとことにした。
ワイヤーブラシでこすると若干の錆があったものの、このくらいで変化はないだろうと思っていたが、念のためにとペーパーを使って綺麗に磨き上げた。
センサーを取り付け波形の観測をすると、前回は右の出力電圧が小さかったのだが、逆に左のほうが小さくなってしまった。
まさかこんなに改善されるとは思わなかったのでびっくりである。
もしかすると左側も清掃すると変化があるかもしれないと思い清掃してみた。
こちらも特別汚れている感じではなかったが、清掃後の波形にはあきらかな変化があった。
最初よりも遅い車速で測定したのに、左右とも出力電圧が大きくなったのである。
清掃によってこんなにも変化があることには驚いた。
実は、清掃によってどれだけの変化があるかを確認するために、センサー取付面からローターまでの深さを清掃前後で測定していたのだが、清掃する前後では0.4mmほどの違いがあった。
このセンサーのエアギャップはいくらかわからないが、一般的にピックアップコイル式のエアギャップは0.3mm前後である。
よって、清掃によって0.4mmの違いは大きいのではないかと思われる。
特別汚れているわけでもなく、錆自体もそんなにひどくなかったのだが、これほど出力電圧が変わるとは思いもしなかった。
清掃後の各車輪の速度は同じになり、停止直前にABSが誤作動することは無くなった。
このように停止直前にABSが誤作動する場合は、車速センサー取付部の清掃を行うことをお勧めする。
また、車速センサーを外した時も、予防のため取付部を清掃しておいていただきたい。
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