左右の吹き出し口の温度差がかなり大きいという、平成21年式エッセ(車両型式DBA-L235S、エンジン型式KF)のトラブル事例を紹介する。
話を聞いてみると、温度設定を最強冷に設定すると助手席側はそれなりに冷えた風が出るが、運転席側は助手席側に比べて明らかに暖かい風が出るという電話相談。
設定温度を上げてもその傾向は変わらず、やはり助手席に比べ、運転席側の温度は高いらしい。
吹き出す風の勢いに差はあるのか聞いてみたが、風の勢いにほとんど差はないそうだ。
他に不具合はないのか確認をしたが、吹き出し口の切替も正常で、他に異常と感じることは無いとのこと。
まとめると、不具合は冷房の効きが若干弱いことと、運転席側の吹き出し温度が助手席に比べて高いということのようだ。
この車のエアコンは左右独立温度制御など搭載していないにもかかわらず、実際には吹き出し口温度に差が出ている。
エバポレータを通過した空気が助手席側に出て、エバポレータを通過していない空気が運転席側にでているのだろうか?と考えてみたが、そんな話は聞いたことが無い。
設定した温度にならない場合、関連する部品として、エアミックスダンパの動き不良も考えられるが、この場合は、左右共に同じ温度になるはずだ。
まずはメーカーの解説書で、エアコンシステムの風の通路を調べてみたが、肝心なところが詳しく記載されておらず、分解してみなければわからないということになった。
電話での相談はここでいったん打ち切られ、ひとまず分解してみるということで話を終えた。
後日連絡があり、結果が判明したとのこと。
原因はエバポレータの空気が通過する部分がホコリ等で半分程詰まっていたそうだ。
しかし、これが原因ならば助手席側も冷たい空気が出ずに、暖かい空気が出るはずである。
他に気づいたことがなかったか聞くと、空気の通路に対して、エバポレータが斜めに取り付けられているレイアウトが関係しているのではないだろうかと言っていた。
エアコンユニットASSY交換を行い正常になったそうなので、後日交換した部品を持ってきてくれることになった。
到着した部品を分解して構造を確認し、不具合の現象から原因の仮説をたててみた。
実際の部品を写真に収めてみたが、写真では説明が難しいため、イメージしやすいように図にしてみた。(図参照。ただし、実際のものとは異なる部分もあるので、参考程度にしてほしい。)
図の@がホコリやゴミによりエバポレータを通過する空気の通路が詰まった部分である。
この詰まりがあるため、本来通過するであろう空気の量が大きく減少する。
運転席側の吹き出し口から出る空気は、エバポレータ通過後にA→Bを通過する際、ヒーターコアの熱の影響を受けてしまい、温度が上昇してしまう。
助手席側の吹き出し口から出る空気は、エバポレータ通過後にC→Dを通過するが、ヒーターコアから距離があるため、熱の影響は小さい。しかし、それでも本来の温度よりは高くなってしまう。
十分な量の空気がエバポレータを通過し、その空気がしっかりと冷やされている時には影響が少ないが、今回のようにエバポレータを通過する空気が大きく減少してしまったために、ヒーターコアの熱の影響を受けてしまったのではないかと考えられる。
この図のような流れであれば、吹き出される風の温度に左右差が出てもおかしくはないし、若干の冷え不良が発生しているのも納得できる。
恐らくは、風の強さも左右で若干差があったはずである。
そして、このようになった原因は、エアコンフィルターが装着されていなかったのが原因と考えられる。
他の車でもいえることであるが、エアコンフィルターが設定されている車と、そうでない車がある。
また、同一の車でも、装着/非装着の車がある。
今回の車は、本来はフィルターが設定されているのだが、取り外されていたそうだ。
エアコンフィルターは割と高額なため、ついつい交換を怠ったり、取り外してしまうことがあるが、その代償は大きい。
適切な時期に適切な交換を推奨したり、交換を怠った場合のリスクを説明するのも整備士の役割。
ただ交換を勧めるだけだとユーザーは警戒してしまうが、仕組みをしっかりと説明し、交換する理由を明確にすれば、理解を示してくれるユーザーも多く存在する。
ユーザーの将来的な負担を軽くするためにも、是非しっかりとした説明をお願いしたい。
《技術相談窓口》
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