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2020年8月
エンスト後、始動不能

走行中にエンストし、その後クランキングしてもエンジンが始動しなくなったという平成18年式ステージア(車両型式M35・エンジン型式VQ25DD)のトラブル事例を紹介する。

症状を確認すると、クランキングしても全く初爆が無い。

スキャンツールで自己診断をしたところ、『異常無し』を表示する。

キーON時、クランキング中、ともに燃圧は正常だった。

キーON時のイグニッションコイルの電源は正常だが、クランキングしても全気筒とも点火はしていなかった。また、オシロスコープの点火指示波形を点検したが全気筒とも確認できなかった。

何度かクランキングした後にスパークプラグを外してみると、完全に乾いた状態であることからインジェクターも作動していないことが確認できた。

点火指示波形が出力されず、インジェクターも動いていないとなると、エンジンの回転センサである、クランク角センサ(POSセンサ)カム角センサ(PHESEセンサ・左右バンクに1個ずつある)が疑われる。

しかし、自己診断で異常を拾っていないため、信号波形自体は発生していると推測できる。

そこで、バルブタイミングが大きく狂ってクランク角センサ、カム角センサの位相がずれてしまい、点火タイミングやインジェクタの噴射のタイミングが分からなくなっているのではないか、という疑いを持った。

信号波形自体は発生していても、信号波形の大幅なズレや波形の欠けがあると、その信号波形をECCS・C/Uは正しい信号と思って制御をしてしまう。

つまり、エンジン始動不良が発生するほどのクランクとカムの位相ズレが発生していてもECCS・C/Uは異常と判別出来ない可能性があるということである。

そこで、カム角センサのカプラを外すことにより、フェイルセーフに移行させてテストしてみることにした。

もしカム角センサから位相ズレの信号が発生していれば、カプラを外してフェイルセーフに入れることにより、もう一方のカム角センサの信号を基に制御を行い、エンジンがかかるかもしれないのである。

最初に右バンクのPHESEセンサを外してみたが変化が無かった。

次に左バンクのPHESEセンサのカプラを外すとエンジンが始動した。

ただし、アイドリングは不調で、ラフアイドル状態だった。

このエンジンにはeVTCという電磁式の可変バルブタイミング機構が左右バンクのインテーク側に付いており、ラフアイドル時にスキャンツールのデータモニタを見てみると、ECCS・C/Uの左バンクのVTC指示角度は0度なのに、実際の左バンクのVTC角度が63度を表示していた。正常であればアイドリングでVTCが進角することはない上、最大進角は35度なのに63度と大きく進角した状態になっている。これはECCS・C/UがVTCに対して指示を出していないのに進角していることを示し、さらに制御範囲以上に進角してしまっていることを示している。

このeVTCというシステムは、進角時にはインテーク側のカムシャフト先端に設けられたeVTCドラムに電磁ブレーキをかけることによりバルブタイミングを進角させる。

進角の指示が無い時は、スプリングの力により最遅角位置になるが、当該車両はこのスプリングが破損し、タイミングチェーンに引っ張られる形で制御範囲を超えた、物理的に進角出来る位置まで進角させられ、今回の症状になっていたと推測される。

確認のために左右のカム角センサ(PHASEセンサ)の位相をオシロスコープで測定すると、図のように正常波形に比べて左バンクが約60度進角していることが確認できた。

修理方法としてはタイミングチェーンを外してeVTC・ASSYの交換が必要になる。

今回の診断を振り返って思ったが、指示をしていないのに通常範囲の2倍近くの進角をしてしまって、点火もせず、インジェクターも作動せず、エンジンが全く始動しないのに自己診断が異常無しというのが故障診断を難しくさせていた。

これが最近の車の自己診断のように、目標進角度と実進角度の差が大きいというトラブルコードを表示していれば、簡単に故障診断を終えたのではないかと思われる。

《技術相談窓口》


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