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2021年4月
ステップモーター式ISCV の構造

アイドリングが高く、いつまでたってもエンジン回転が下がらないというスバルサンバー(車両型式LE-TV1、エンジン型式EN07)のトラブル事例を紹介する。

問診したところ、エアコンを入れてエアコンコンプレッサが作動するとちょうどよい回転になるが、エアコンコンプレッサが停止すると再びエンジン回転が高くなるらしい。

また、スロットルボデーの上についているバルブを清掃してみたが、それでも不具合が改善されないという。

この車はDジェトロ方式なので、アイドル回転が高いという場合には大きく分けて2つの原因が考えられる。

1つ目は、スロットルボデー以外の経路からエアを吸っている場合。

2つ目は、何らかの原因でISCVが開いたままになっている場合である。

まずは、スロットルバルブの入口を手で完全に塞いでみたところ、エンストしてしまった。

この結果から、エンジン回転を上げるほどの空気は、全量スロットルボデーから入っているということが確認できた。

言い換えると、スロットルボデー以外からのエア吸いは無いと言える。

次にISCVが何らかの原因で開いたままという可能性を考え、アイドリング中にISCVのバイパス通路を塞いでみたところ、エンスト直前の回転数まで低下した。

これで、エンジン回転が高いのは、ISCVの通路が開いているのが原因ということが分かった。

残るはISCVがECUからの指令で開いているのか、それとも機械的に開いたまま固着しているかのどちらかとなる。

そこで、まずはISCVの電源を測定したが、電源は12.4Vと問題はなかった。

次にISCVの単体点検を実施したところ、4つのコイルは全て46Ωとこちらも問題なさそうであった。

続いて、イグニッションキーのON/OFF時に行われるイニシャル作動の確認をするためにISCV本体をスロットルボデーから取り外したところ、ISCVのバルブシャフトが残り、ISCV本体だけが外れてしまった。(写真参照)


ステップモーター式ISCVの構造上、これは完全にダメである。

そもそも、ステップモーター式ISCVは図1のような構造となっており、ステップモーターが作動しない限り、ISCV本体からバルブシャフトが抜けることはない。

この図のステップモーターは、4つのステータコイルに順番に電気を流すことで、ロータが回転するようになっている。

ロータはその場で回転するが、図1でいうところの左右方向には動くことができないようになっているため、バルブシャフトが左右方向に動く仕組みである。

イメージができにくい場合は、ボルトとナットの関係を思い浮かべると良い。(図2参照)


ボルトを回らないようにし、ナットを回転させると、その回転方向によってナットは左右に移動する。

しかし、ボルトを回らないようにし、ナットをその場で回転させる(ナットは左右方向に移動できないようにする)と、ナットの回転に伴い、ボルトはナットの回転方向によって左右に移動する。

このような仕組みで、ISCVのバルブシャフトが移動し、先端のバルブでバイパス通路の開度を制御している。

今回のトラブルは、図2のナットに相当する、図1のロータのめねじが潰れてしまい、ISCV本体からバルブシャフトが簡単に抜き差しできるようになっていた。

本来であればバルブシャフトのおねじは、ロータのめねじとかみ合っているのでバルブシャフトは抜けないはずである。

(ナットにボルトを組付けた状態でボルトを引き抜こうとしても抜けないのと同じ)

そのバルブシャフトが簡単に抜き差しできるようになっている時点で、ISCVは交換しなければならない。

すぐに部品を手配してもらい新品のISCVを取り付けたところ、アイドリングの回転は正常に制御されるようになり、不具合は完治した。

なおこれは余談であるが、ステップモーター式ISCVはこれまでに説明した特性上、コネクタを外した時点での開度を保持するようになっている。(コネクタを外すことでロータは回転しなくなるので、バルブシャフトは絶対に動かない)

例えば、減速停止時にエンストするというような症状の車でISCV不良を疑うときに、どのように切り分けるか悩むことがある。

もしその車がステップモーター式ISCVであれば、完全暖機後の無負荷アイドリング回転が1000rpmほどの時にISCVのコネクタを外せば、ISCVの開度はその状態で固定となる。

つまり、この状態であれば暖機後の無負荷アイドリングの回転は常時1000rpmとなる。(コネクタはずっと外したままにしておく)

ただし、アイドリング回転を我々整備士が任意の回転数に上げるということはなかなか難しいため、例えば、電気負荷を入れてISCVのステップ数を上げた(開度を大きくした)ときにコネクタを外して、その後電気負荷を無くすなどし、無負荷アイドリングの回転を調整するしかない。

アイドリングの回転が1000rpmもある状態で走行すれば、普通はエンストすることはないが、それでもエンストが発生するようであればISCV以外が原因ではないかと切り分けることができるということである。(エアコンなど電気負荷は作動させないで走行することと、車によってはエンジン警告灯が点灯したままとなるため注意する)

もちろん、エアコンを入れている時にしか不具合が発生しないという場合もある。このような場合は、エアコンコンプレッサが作動してエンジン回転が正常に上がっている時にISCVのコネクタを外すとよい。

しかしこの場合においては、コンプレッサがOFFになったとたんにエンジン回転がかなり上昇するため、走行中のブレーキの効きが悪くなったり、A/T車においてはクリープ力が大きくなるので、走行時には細心の注意が必要だ。

話が逸れたが、自動車の修理をするにあたり、どの状態が正常なのか、どのような状況でどのように作動するのが正常なのかということが理解できていないと、せっかく原因を見つけても気が付かずに見逃してしまう。

今回の事例も、事前の問診ではISCVは清掃済みとのことだったので、清掃時に気が付いていた可能性もあるのだが、そもそもどの状態が正常なのかを知っておかなければ、現状が正常なのか異常なのかが判断できないということだ。

そうならないようにするためにも、日々の研鑽を怠らないようにしていきたい。


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