エンジン回転が4000min-1から上がらないという、平成23年式ハイゼット(車両型式EBD-S201P、エンジン型式KF-VE)のトラブル事例を紹介する。
依頼者に話を聞いてみると、エンジンオイルの消費が激しく、外注でエンジンをオーバーホールしてから現在の状態に
なっている。
オーバーホールの内容は、ピストン、タイミングチェーン、チェーンガイド、バルブ周りを交換し、同時にプラグも新
品に交換したとのこと。
エンジン回転が4000min-1で頭打ちの状態の時にブレーキクリーナーを吸わせてみたが変化はなく、同じ状態でパワーバランステストを行ってみたが、特定シリンダの失火ではないらしい。
まず、圧縮および火花を点検してみたが、共に問題なかった。
燃料についても、濃すぎて吹け上がらないという状態ではなく、また、エンジン回転が頭打ちの状態でブレーキクリー
ナーを吸わせてみたものの変化がないことから、不具合の原因ではないと判断。
エンジン回転が頭打ちの状態でスキャンツールによるデータモニタを行ったところ、データモニタ上でのエンジン回転
が3200〜4000min-1の間で大きく変化していた。
しかし、体感的にはそのような大きなエンジン回転の変動が起こっているとは思えず、また、点火時期もBTDC5°と正常とは思えない数値であったため、クランク角センサの信号波形を計測してみると、信号波形の電圧が一部分だけ極
端に低くなっていることがわかった。(図1参照)
クランク角センサの不良も考えられるが、センサの不良で信号の一部分のみの電圧が低くなることは考えにくく、今回
はエンジンをオーバーホールした後からの不具合であるため、クランクシャフト・シグナル・プレートを点検したとこ
ろ、シグナル・プレートの一部分が変形していた。(写真及び図2を参照)
シグナル・プレートが変形したことにより、クランク角センサとのエアギャップが変化し、信号電圧が極端に小さく
なっているものと考えられる。
結果、エンジン回転が正確に判断できずにこのような不具合を引き起こしていたのだった。
シグナル・プレートが自然に変形するわけもなく、考えられる原因としては、エンジンオーバーホール中の作業ミスと
いう線が濃厚だが、オーバーホールした業者はその部分は触っていないとのことで、話は平行線。
最終的にはクランクシャフトごと交換(シグナル・プレートはクランクシャフトに圧入されているため)し、不具合は
完治した。
何らかの作業を行ってから発生した不具合は、十中八九作業した内容に原因がある。
作られたトラブルというものは原因の究明が非常に難しいため、分解整備作業を行う際には細心の注意を払ってほしい
と感じた一件であった。
《技術相談窓口》
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