エンジンがかからなくなってしまったという、平成15年式ジムニー(車両型式TA‐JB23W、エンジン型式K6Aターボ)のトラブル事例を紹介する。
ユーザーから、オーバーヒート気味になるため、ヘッドガスケットを交換して欲しいという依頼を受けたのが事の発端。
ヘッドガスケットの交換だけでは完治しない可能性があることを了承してもらったうえでの作業となった。作業が完了しエンジンをかけようとしたのだが、クランキングはするが初爆が無い状態で原因を調べてほしいという依頼。
当会に持込む前に、再度タイミングチェーンの合いマーク、圧縮、火花、燃圧を測定したがいずれも問題なく、念の為にカム角センサを交換したが改善されないとのこと。
当会でも再度点検し、圧縮、火花、燃圧、バルブタイミングに問題がないことを確認。
状況確認の為のクランキング中に、マフラーから出る排気ガスの勢いが弱いように感じられたため、排気管の詰まりを疑い、О2センサを取り外してクランキングしてみたが、変化はなかった。
作業後からの不具合なので、原因は作業した工程にあるはずである。
よって、重い腰を上げてフロントカバーを取り外し、タイミングチェーンの状態を確認したのだが、タイミングチェーンが伸びていること以外、問題は無かった。
作業前はエンジンが正常にかかっていたことから、タイミングチェーンの伸びが直接的な原因とは考えにくい。
手詰まり感が漂う中、ふとクランキング中の排気ガスの勢いが弱いことを思い出し、再度、排気の状態を確認することにした。
スパークプラグを全数取り外し、バルブを排気行程の状態にしたうえでプラグホールから少しずつ圧縮空気を送り込んだところ、なんとクランクシャフトが回転してしまった。
本来であれば、圧縮空気は排気バルブからマフラーに抜けていくため、クランクシャフトは回転しないはずである。
クランクシャフトが回転したということは、シリンダ内の圧縮空気がマフラーへ抜けることができなかったということになる。
しかし、O2センサを取り外してクランキングは実施済み。
となると、排気バルブからO2センサまでの間の詰まりとなる。
その間にあるのはエキゾーストマニホールドとターボチャージャーのみ。
まずはターボチャージャーとエキゾーストマニホールドの接続を外し、目視で点検できるところを調べてみたところ、ターボチャージャーの入口に何か詰まっているものを発見。
取り出してみると、マスキングテープの塊であった。(写真参照)
異物を全て除去した後に、念の為、タイミングチェーンとチェーンテンショナ及びチェーンガイドを交換し、全ての部品を組み付けてエンジンを始動すると、問題なくエンジンが始動できた。
このことを依頼者に伝えたところ、ヘッドガスケットを交換する際に、エキゾーストマニホールドとターボチャージャーの接続部を切り離したのだが、その際に取り付けボルトが折れてしまい、折れたボルトを取り除くためにボルトの頭を溶接したそうだ。
溶接の際に養生する目的で通路にマスキングテープを詰めて、溶接時の金属粉がターボチャージャーに入らないようにしていたらしい。
本誌2021年11月号の実践整備事例でも述べたが、作られたトラブルは本当に原因究明が難しいため、整備作業は慎重に行ってほしい。
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