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2022年3月
アイドリングストップは付いてないのに

アイドリングストップ機能は付いてない車両なのに、勝手にスタータモータが回ってその後エンジンチェックランプが点灯し、エンジンが吹けなくなったという平成19年式ノート(車両型式E11、エンジン型式HR15DE、走行距離11万km)のトラブル事例を紹介する。

ユーザーの話では「少し登りの坂道で発進した時に、エンジンが止まりそうになったが、エンジンをかける時のようなキュルキュル音がしてエンジン回転の落ち込みは無くなった。その代わり、エンジンチェックランプが点灯して、その後はエンジンが吹けずに加速出来なくなった」とのこと。

アイドリングストップが付いてない車両で、ユーザーが始動操作をしていないのにスタータモータが回るというのは通常考えにくい。

入庫した時はエンジンチェックランプが点灯していて、空吹かしをすると約2,400回転でフューエルカットしていた。

走行してみると、やはり加速した時に2,400回転でフューエルカットしていた。

自己診断をすると「P1652スタータモータリレー2制御システム通信系」を検出していた。

FAINESで整備要領書を確認すると、「P1652」に関する概要は次の通りだった。

「ECMはエンジン及び車両の状態によりスタータモータリレー2駆動電源のON/OFF制御を行っている。急減速やエンジン高負荷に伴うエンジン回転数の低下を補うため、ECMはエンジン回転数の低下を感知したときにスタータモータリレー2駆動電源の制御を行い、スタータモータを再駆動させる。」

簡単に言うと、エンストしそうなくらいエンジン回転数が下がるとECMがスタータモータを回してエンストを回避するシムテムが付いているのである。

ところが「P1652」のDTC検出条件を見てみると、ECMとIPDM E/R内部回路の通信異常を疑うことになっており、エンスト回避のためにスタータモータを作動をさせた時に「P1652」を検出するという記載は無い。(図1)

しかし、実際にはエンストしない代わりにこのシステムでスタータモータが作動すると、「P1652」を記憶して、エンジンチェックランプが点灯し、フェールセーフモードに入り、エンジンが2,400回転以上吹けなくなってしまう、ということが分かった。

自己診断を消去すると約2,400回転のフューエルカットは無くなり、正常に走行することが出来た。

この「P1652」という自己診断を検出した時は、整備要領書通りの手順を行う前に、減速時や高負荷時など、エンジン回転が落ち込んだ時に勝手にスタータモータが回らなかったかをユーザーに確認する必要がある。

もし勝手にスタータモータが回った時は、図1の推定原因の箇所を点検する前に、エンジン回転が落ち込む原因を探すことが必要である。

この車両はデータモニタを見る限りではエンジン不調となるような数値は見受けられない。

ただ、アイドリング回転が少し落ち込むことがあったのでスロットルチャンバを点検してみると距離相応の汚れがあった。

スロットルチャンバを清掃して吸入空気量学習を行うとアイドリングの落ち込みもなくなった。

推測にはなるが、アイドリング回転の落ち込んでいる時にエンジン負荷が重なり、あるエンジン回転数を下回ると、ECMがエンストを回避するためにスタータモータを回してエンジンチェックランプを点灯させた可能性がある。

その後しばらく経ってから工場の方と話す機会があり、その後の調子を聞くと、症状の再発はなくユーザーが快適に使用しているとの回答だった。

このシステムに関して思ったのだが、エンストしたとしてもユーザーが自分で再始動させて通常に走行できるのが良いのか、この車のようにエンジンが吹けないおまけ付きではあるがエンストしないほうが良いのか…。

ちなみに他の車種でもHR15DEエンジンを搭載した車両(CVT車のみ)で、この車両に近い年式以降の車は同じシステムが搭載されていると思われる。

《技術相談窓口》


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