ゆっくりと加速する、いわゆる緩加速時にトランスアクスルからの振動が酷いという、平成22年式プリウス(車両型式DAA-ZVW30、エンジン型式2ZR−3JM)のトラブル事例を紹介する。
これまでの経緯を聞いてみると、他の整備工場でトランスミッションのインプットダンパの不良と診断されたため、ユーザー自身が部品を手配し、交換作業のみ頼まれたそうだ。
交換作業を行う前に、今回の部品は相談者の工場で診断した結果のものではないため、持ち込まれた部品を交換しても不具合が完治する保証はない旨を説明したのだが、それでも構わないとのことで部品交換を実施。
案の定、部品を交換しても不具合が改善されなかったため、当会に相談したとのこと。
当会に相談する前に、スロットルボデーの清掃、EGRバルブ及びEGR通路の清掃、プラグとコイルをストック品と入れ替えてみたが、不具合は改善されなかったという。
まずはデータモニタを行いながら不具合の状況を確認したところ、確かに緩加速時のトランスアクスルからの振動が酷い。
速度で表すと、不具合を顕著に感じるのは、車両停止状態から約50km/hまでの間の緩加速時であった。
まずはじめに失火カウンタを確認したが、トランスアクスルからの振動が発生している時に失火カウンタは変化していなかった。
このことから、ECUは失火を検知していないということになる。
他に振動と関連するデータが無いか確認したところ、どうもEGRの制御と不具合の発生がリンクしているようだ。
試しにEGR通路をカットしてみたところ、不具合は発生しなくなった。
EGR通路をカットすると不具合が治まることから、EGR関連であることは間違いないのだが、EGRバルブと通路は清掃済みである。
となると、考えにくいがEGRバルブの動きが悪いのだろうか。
念の為、エアフロメータや吸気管圧力センサの信号を確認したが、明らかに異常と断定できるデータではなかった。
EGRバルブの作動時の機械的な動きは点検ができないためEGRバルブを交換してみたのだが、症状は改善されなかった。
完全に行き詰まってしまったため、EGR関連について再度1つ1つ自身の目で確認することにした。
その結果、インテークマニホールド内部のEGR通路が詰まったままだったことが分かった。
インテークマニホールド内に入った排気ガスは、EGR チャンバを経て各シリンダの吸気ポートに枝分かれしてシリンダ内に吸入されるようになっていた。(写真を参照)
3番シリンダ用の通路はカーボンで完全に塞がっており、他のシリンダも通路がカーボンの影響でかなり狭くなっていた。
可能な限りカーボンを取り除いたのちに組付けたところ、不具合は解消された。
ここからは推測になるが、恐らく3番シリンダはEGR の影響を受けずに燃焼していたと考えられる。他のシリンダはEGR 通路の面積が均一ではないため、EGR の影響がシリンダによって異なる状態で燃焼していたと考えられる。
そうなるとシリンダ間の燃焼トルクは不均一になるため、モータートルクとのバランスをとることができずに振動が発生していたのではないだろうか。
アクアやプリウスのトランスアクスルからの振動は、EGR システムの不良というのが多いようであるが、EGR の清掃を行う際には是非とも本誌を参考にして細部までしっかりと清掃を行ってほしいと感じた一件であった。
《技術相談窓口》
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