アイドリングは正常なのに、エンジン回転を少し上げるだけでいっきにエンジン不調になり、ある回転から吹き上がらなくなるという平成13年式アクティ(車両型式GD-HH5、エンジン型式E07Z)のトラブル事例を紹介する。
依頼者の工場では、走行距離も20万キロを越えており、また、ダイアグノーシスでも正常コードを表示したこともあり、燃料不足により吹き上がらないだろうということで、プラグや燃料ポンプを交換したようである。
話を聞いた限りでは、やはり燃料不足のような感じなので、燃圧計とスキャンツールをセットし、いつ不具合が発生してもすぐに点検出来るようにしておいた。
しばらくすると不具合が発生したので、燃圧を確認すると約2.5kg/cm2と問題なかった。
スキャンツールのデータモニタでスロットルセンサー、水温センサー、バキュームセンサー、O2センサーなど空燃比に関する箇所の数値を調べたが、こちらも特に悪いと思える数値ではなかった。
停車状態でも不具合が出るのだが、不思議なことにアイドリングは全く問題ない。
エンジン回転を徐々に上げると、1000回転を超えるくらいからかなりのエンジン不調になり、2000回転以上は吹き上がらないのである。
その状態でパーツクリーナーを吸わせても吹き上がらなかった。
こうなると燃料不足による不具合の可能性は無くなった。
エンジン回転を2000回転くらいに保ったままインジェクタのコネクタを順番に抜いていくパワーバランステストを行ったが、特定のシリンダが失火しているわけではなかった。
次に、インジェクタの作動音を聞くと、本来は規則正しいタイミングで作動音が聞こえるはずなのに、この車のインジェクタは不規則に作動しているように感じた。
このように不規則に作動する原因は、クランク角センサーの信号が乱れているのではないかと思い、オシロスコープで波形を調べると、アイドリング時とエンジンが吹き上がらない時の波形に違いがあることに気がついた。
図1は正常時の波形で、クランク角センサーは、短い信号が2個と長い信号2個が交互に立ち上がっている。
それに対して図2の不調時は、短い信号が2個立ち上がっている時もあるが、1個しか立ち上がっていない時もあるのである。
上側の3番シリンダの点火指示信号と並べて点検すると、正常時は長い信号の中間で点火指示信号が発生しているのに、不調時は信号が抜けているせいで本来と違うタイミングで点火指示信号が発生していた。
当然、インジェクタの駆動信号も本来と違うタイミングで発生しているものと思われるし、点火時期も同じように狂っていると思われる。
アイドリング時は正常で、回転を上げると信号が抜ける理由は不明だが、クランク角センサーが悪いのは間違いないので交換した。
交換すると不具合は解消された。
話を聞いた限りでは燃料系のトラブルと思っていたが、まさかこんなことが原因とは思わなかった。
この後、同様のトラブルを数件経験している。アイドリングは正常で、少しエンジン回転を上げるといっきに不調になる場合は、クランク角センサーの点検が必要である。
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