走行には問題が無いのだが、エンジンチェックランプが点灯して「P0171」(リーン異常)を検出するという、平成23年式ムーヴ(車両型式CBA-LA100S、エンジン型式KF-DET)のトラブル事例を紹介する。
これまでの作業で、インテークマニホールド、吸気管圧力センサ、フロントO2センサ、PCVホースを交換し、エア吸いも点検したのだが問題は無く、症状が一向に改善されないという。
アイドリング時のO2センサは常にリーン信号を出力しており、エンジン回転を上げるとリッチ/リーンを繰り返すようになるらしい。
まずは暖機後のアイドリング時のデータを確認したところ、トータル燃料補正値が140%となっていた。
その状態で排気ガスの濃度を測定したが問題が無かったことから、本当に燃料が薄いと判断した。
そこで基本点検から実施したところ、燃圧は3kgf/?、圧縮は14〜15kgf/?とどちらも問題なし。
念のためエア吸いも点検してみたが、やはり問題は無かった。
水温センサの特性ズレや吸気管圧力センサの特性ズレも確認してみたが、こちらも問題は無かった。
走行中の各種データも、空燃比のデータ以外は特に気になるような項目は無かった。
他に燃料が薄くなる原因として考えられることは、インジェクタの汚れや詰まり、ECU不良となる。
ECUは点検ができないため、まずはインジェクタを取り外して墳孔を確認してみたが、見たところ燃料が足りなくなるような状況ではなかった。
念の為にインジェクタの墳孔を清掃してみたが、若干の改善は見られたものの、大きな変化はなかった。
困ったことにECU以外、原因が見当たらない。
しかし、ECU交換は最後の手段となるので、不具合の原因となり得る様々な可能性を考えていたところ、ふとインジェクタにはターボ車用とノンターボ車用で異なる場合があることを思い出した。
誤って仕様違いのインジェクタを取り付けてしまえばこのような不具合が起こり得るかもしれないと考え、新車解説書で確認すると、この車もターボ車用とノンターボ車用でインジェクタが異なることが分かった。(参考資料参照)
ターボ車用のインジェクタの墳孔数は「8」となっていたが、現車のインジェクタ墳孔数は「10」であった。(写真1参照)
しかし、この年式のターボ車用のインジェクタの墳孔数は先に述べた通り「8」である。
年式の異なる解説書を調べていくと、マイナーチェンジ後でターボ車用のインジェクタが変更されていることが分かった。
変更後の墳孔数は「10」で、流量が減少している。
このインジェクタが取り付けられているのであれば、流量が減少している分、本来のインジェクタの通電時間では燃料が足りなくなっても不思議ではない。
すぐに依頼元の工場に連絡し、墳孔数が「8」のインジェクタを取り寄せてもらったところ、インジェクタ交換後は全ての不具合が解消された。(写真2参照)
ここからは推測になるが、この車両は中古車で購入したものらしく、過去に何らかの原因でエンジンを載せ替えた際に、マイナーチェンジ後のエンジンを搭載してしまい、そのまま流通したのではないだろうか。
トラブルシュートを行う際には修理書や解説書を参考に作業を進めていくが、それらの資料と異なる部品が取り付けられている場合、不具合の原因を見つけ出すことが困難となる。
今回は原因にたどり着いたからよかったものの、このようなトラブルは本当に勘弁してほしいと感じた一件であった。
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