エンジンの調子が悪くなり、その後エンストしてエンジンがかからなくなったという、平成14年式アルテッツァ(車両型式GH-SXE10、エンジン型式3S-GE、走行距離18万q)のトラブル事例を紹介する。
この車両は1ヵ月前にアイドル不調と加速不良で入庫しており、その時は3番のイグニッションコイルが不良という診断で、イグニッションコイルを新品に交換している車両。
イグニッションコイルを交換後は調子が良かったが、また調子が悪くなって、今度はエンストした後は全くエンジンがかからなくなったということで当会に入庫。
現象を確認すると、クランキングはするが、ガス欠した時のようなクランキングの音がして、時々初爆のようなものはあるが全くかかりそうな気配は無い。
クランキング中にマフラーからの匂いを嗅ぐと、ガソリンの匂いはする。
アクセルペダルを踏んでも踏まなくても症状は変わらない。
自己診断はVVT系統が出ていたそうだが、現在は何も出ていない。
ガス欠のようなクランキングだったので、まずは燃圧を点検してみたが、燃圧は正常だった。
次に点火系統を点検したところ、クランキング時に4気筒ともしっかり火花は出ている。
スパークプラグもかぶってはいない。
インジェクタの作動はオシロスコープで確認したが、こちらも異常は無し。
エンジンの三要素である、良い火花、良い燃料、良い圧縮、の火花と燃料は問題無いと言える。
残るは良い圧縮だが、始動不良になるほど急に圧縮圧力が下がるとは思えないが、念のために圧縮圧力を測ってみると、4気筒とも0.8〜0.9MPa(基準値は1.2MPa、限度値は1.1MPa以上)ほどだった。
それでも始動不良になるほどの圧縮圧力ではないし、急に4気筒とも下がったとも思えない。
バルブタイミングのずれを疑い、VVTのオイルコントロールバルブも単体点検したが問題無い。
次に、タイミングベルトのカバーを外してクランクプーリのインジケータを1番圧縮上死点を合わせた状態でカムプーリの位置を確認すると《写真1》の通り、カムプーリーの位置がインテーク、エキゾースト共にタイミングベルト1コマ分ずつ遅れ側にずれていることが分かった。(正常な位置は《写真2》)
しかし、たった1コマずれぐらいで始動できなくなるのだろうか…。
1コマずれた為に、インテークバルブの閉じるのが遅くなり、圧縮圧力が下がっている可能性はあるが、始動不良まで起こるとは思えない。
ここで良く考えてみると、カムシャフトの位置を検出するのはカムポジションセンサである。
良い火花は出ているが、点火時期はカムポジションセンサからの信号が基準となるので、クランクシャフトに対してカムスプロケットがタイミングベルトの1コマ分遅れるということはその分点火時期の基準も遅れるということである。
つまり良い火花が出ていても1コマ分遅れたタイミングで点火するので、混合気に正常に着火出来ない。
ただ火花は出ているのでスパークプラグはかぶっていなかったと思われる。
このままタイミングベルトを1コマ戻して組めばエンジンは正常に戻ると思われるが、1コマ分ずれた原因は何なのか。
タイミングベルトの張りを点検したが問題なく、とてもコマ飛びするような張りではない。
このエンジンは油圧オートテンショナを採用しているが、タイミングベルトを外すためにテンショナを緩めたり張ったりしてみたが、異常は無かった。
他のアイドラプーリやスプロケットも問題無かった。
こうなるとテンショナ以外の部分でタイミングベルトの張りが緩んでコマ飛びするような要素は考えられないので、一旦タイミングベルトのずれを直して、問題無ければ後ほど依頼があった工場でテンショナを交換してもらおうと思い、コマずれを直してみた。
するとエンジンはすぐに始動し、エンジン不調も出ない。
何度か空吹かしをしても今のところはテンショナは問題無く、タイミングベルトが暴れるような様子も無い。
一旦エンジンを止めて圧縮圧力を確認すると4気筒とも約1.1MPa以上の正常な数値になった。
始動不良は解決したので、テンショナを交換した方が良い事を依頼があった工場に伝えて返車した。
《技術相談窓口》
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