ブーストが効きだしたあたりでエンジンが吹けなくなる、という平成12年式テリオスキッド(車両型式GF-J131G、エンジン型式EF-DEM、走行距離13万km)のトラブル事例を紹介する。
ユーザーの話では、アクセルを踏んで加速する時に、ブーストが効きだすあたりでエンジン回転が頭打ちしたように吹けなくなるという。
依頼があった工場ではターボチャージャを交換、吸気系の洗浄、燃料系の洗浄をしたが変化が無いということで当会に入庫した。
実際に走行してみると少し強めにアクセルを踏んだ時にエンジン回転が頭打ちしたようにガクガクと加速不良を起こした。
アクセルを弱めに踏んで加速する時は特に不具合は感じられない。
アイドリングの調子は問題なく、自己診断には何も残っていない。
基本点検から行おうと思い、燃圧を測定したが基準値0.3MPaに対して正常。
圧縮圧力は基準値1.17MPa±0.05MPaに対して1.2MPaで正常。
スパークプラグを点検すると、3本とも少しだけ黒くなっている感じだった。
ブーストが効きだしたあたりに不具合が出るので吸気系のダクトの外れ、ホースの破れなどを点検したが異常は無かった。
排気ガスを測定したが問題ない。
O2センサの動きを確認したが、2000rpm一定の時に約0.2〜0.8Vあたりを規則正しく反復している。
ここまでの点検結果だと空燃比に問題は無いという気がしてくる。
それでは加速を良くするためのターボのブーストが効き始めるとなぜ加速不良を起こすのかを考えると、ブーストがかかり始めた時に燃料が足りない、または適切な点火時期になってない、点火火花が弱い等が考えられる。
燃料が足りなくなる原因だが、燃圧が正常だったことから残るのはインジェクタの不良が考えられる。
しかしインジェクタ不良であればブーストが効かない時でも加速不良を起こすと思われる。
次に点火時期だが、IGNコイルはダイレクトコイルが用いられ、アイドリングの不調や通常の加速も異常が無いことからタイミングチェーンの伸びを含めた、点火時期のずれも考えにくい。
次に点火火花の点検だが、IGNコイルにスパークプラグを取り付けて、エンジンのアース部分(シリンダヘッド等)に近づけて火花の点検をしてみた。
この時に注意しないといけないのは、スパークプラグとアース部分を接触させずに1cmほどギャップを開けることである。
シリンダ内の混合気は圧縮されているので大気圧に比べると点火が困難な状況となる。
その状況を作り出すのにアース部分とのギャップを1cmほど開けて火花が飛びにくくするのである。
このテストをしたところ、3個の内2個のIGNコイルは問題なく火花が発生したが、残りの1個のIGNコイルはシリンダヘッドに接触した状態から1cmも離れないところで火花が飛ばなくなった。
正常ならIGNコイルならギャップを1cmぐらい開けても火花がバチバチ飛ぶ。
この車はブーストが効き出した頃から不具合が発生するということだが、ブーストがかかるということは圧縮される混合気の圧力がさらに上がっているので、さらに点火が困難な状況になる。
そのため、ブーストが効きだした時に1気筒のみ正常に点火が出来なくなり今回の症状になっていたと思われる。
依頼があった工場にIGNコイルを注文するように依頼をして、交換したところ症状は改善された。
今回は不具合を起こしていたIGNコイルのみ交換したが、他のIGNコイルも同じ期間使用しているので、同じように不具合が起こる可能性は否めない。
不具合の出ていないIGNコイルまで含めて全数交換する必要はないが、ユーザーには「今回不具合を起こしたIGNコイルという部品はあと2個あるので、同じように悪くなる可能性がある」とユーザーに伝えておいた方が「この前修理したのにまた同じ不具合が出た。直ってない」と言われないで済むと思われる。
《技術相談窓口》
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