実践!整備事例一覧 > 整備事例  

Page 1
2025年1月
エンジン不調は無いが警告灯が色々点く

走行中に体感するエンジン不調は無いが、メーター内の警告灯がいくつか点灯するという、平成27年式スカイライン(車両型式DBA-YV37、エンジン型式274A、走行距離10万km)のトラブル事例を紹介する。

ユーザーの話では、走行中にエンジン警告灯と、他にもいくつかの警告灯が点くがエンジンの不調は感じないとのこと。

ただ、エンジン警告灯が点灯していると、急にエンストしたりすると怖いので修理してほしいという依頼で工場に入庫したとのこと。

工場でスキャンツールをつないで自己診断をすると、エンジンのECU(以下、ECM)が『P0597:クーラントサーモスタットヒータエレメント』『P0011:インテークカムシャフトコントロール』『C003A:車輪回転センサ右前』、A/Tが『P0721:アウトプット回転センサ』、ABSが『C1101:後輪右回転センサ1』、ADASが『C1A03:車速センサ』『C1A04:ABS/TCS/VDC系統』を検出していたという。

こんなに色々なDTCコードが出ているのにエンジン不調はなく、ECMは右前輪の車輪回転センサを検出しているのにABSは右後輪の車輪回転センサを検出するなど、不可解な点が多いため見てほしいと工場から依頼があり当会に入庫した。

エンジンをかけた時点では特に不具合はなく、警告灯も点灯していない。

少し走行しようとしてシフトレバーをDレンジに入れると、大きめの衝撃があった。

アクセルを踏んで少し車速が出ると、すぐにエンジンとABSとVDC(横滑り防止装置)の警告灯が点灯したが、体感するエンジン不調は無い。

最近の車は、エンジン警告灯が点灯する時はABSやVDCなどの警告灯がいっしょに点くことが多い。

当会でも自己診断をしてみると、依頼があった工場と同じ自己診断を確認することが出来た。

ただ、ECMが検出しているP0011は過去コードになっていた。

自己診断を全てメモをしてから一旦自己診断を消去してからエンジンをかけ直すとP0011は検出せず、P0597だけ検出したが、メータの警告灯は点灯していない。

この状態でシフトレバーをDレンジに入れると、先ほどのようなシフト時のショックが全くない。

その状態から走行しだすと、再びエンジンとABSとVDCの警告灯が点灯した。

再度自己診断を見てみると、最初に検出していたDTCコードからP0011を除いた全てのコードが出ていた。

車を停止して一旦Nレンジに入れてからDレンジに入れると、自己診断を消去する前と同じようにショックが大きくなっていた。

エンジンをかけた時にエンジン警告灯は点灯せず、車速が入ってからABS、VDCといっしょにエンジン警告灯が点灯したことになるが、P0597が原因で点灯するならエンジンをかけた時(P0597を検出した時)に点灯するはずである。

それと気になったのがECMは右前輪回転センサ、ABSは右後輪回転センサを検出していることである。

本当に右前輪、右後輪とも不良であれば、ECM、ABSの両方のECUが両方の車輪を検出するはずである(ECMはABSのECUからCAN通信で信号をもらっている)。

それを確認するために、ABSのデータモニタ画面で走行中の4輪の車輪速を確認したところ、右後輪のみ0km/hのまま変化せず、他の3輪は車速の応じた数値を表示していることが確認できた。

そのまましばらく走行したがP0011や他のDTCを検出することはなかった。

以上の内容を整理するためにFAINESで検出しているDTCコードの内容や警告灯の有無について調べてみた。

ECMが検出しているP0597は不具合として検出はするがエンジン警告灯は点灯しないことがわかった。

次に『C003A:右前輪回転センサ』を調べてみると、このC003AというコードはFAINESでは『右後輪回転センサ』と記載があった。

データモニタでは右前輪に車輪速信号は出ていたので、スキャンツールの表示間違いと言えそうだ。

そうなると車輪速センサの不具合は右後輪だけということになる。

ただ、エンジン系に不具合があってエンジン警告灯が点灯した時にABSなどの警告灯がいっしょに点灯することはあるが、ABS側が原因でエンジン警告灯が点灯するというのはあまり聞かない。

それと『C』から始まるシャシ系のDTCコードがECMに出るのもあまり聞かないが、国産車以外はあるのかもしれない。

この型式のスカイラインにはメルセデスベンツ製のエンジンを搭載しているので、国産車とは違い、ECMにもシャシ系のコードを持たせて、ABS系に不具合があった時にエンジン警告灯も点灯させる仕組みなのかもしれない。

ちなみに同じV37型のスカイラインでもハイブリッド車や日産製エンジン(VQ型、VR型)を搭載している車両のECMにはC003AというDTCコードは存在しないのでABS系が原因でエンジン警告灯が点灯することはないと思われる。

以上の結果からエンジン、ABS、VDCの警告灯の点灯の原因は右後輪回転センサにあると判断し、センサを交換したところエンジン、ABS、VDCの警告灯は走行しても点灯しなくなり、Dレンジにシフトした時のショックも無くなった。

Dレンジにシフトした時のショックはA/TのECUがABSからの車速信号の異常に伴い『P0721』を検出していたからと思われる。

P0597はサーモスタットヒータエレメントという部品の系統の不具合が考えられるが、エンジン警告灯点灯の原因にはならないことと、当会に入庫している間は検出しなかったP0011を検出した時はインテークバルブコントロール系の修理が必要になることを依頼があった工場に説明して返車した。

今回は、スキャンツールの表示名称は間違いがあるかもしれないのでDTCコードから調べるということと、ABS系が原因でエンジン警告灯が点灯することがあるということを勉強させてもらった。

《技術相談窓口》


実践!整備事例一覧 > 整備事例
UP